小林 眞(Out of Museum 店主)
“侘び寂び感”が感じられるラオスの蛾。
物心ついた時から、人間より虫が好きでした。自然が多い長野県の諏訪で過ごした幼少期は、その生態系に身を置いて虫を観察したり、捕ったり標本を作ったりしていましたね。
今も暇さえあれば津々浦々に出向いています。そんな僕の影響か息子の真大(まお)も虫好きになり、今はラオスに住んで蛾の研究をするまでに。最近は、息子に教わることも増えました。オウサマアゲハモドキとGlanycus insolitusは、息子がラオスから送ってくれた写真の中で、特に実物を見てみたいと思った蛾。
蝶は派手で個性のないギャルみたいな印象ですが(笑)、蛾って葉に止まっている時は“沈黙の哲学者”のように思慮深い雰囲気がある。模様もオウサマアゲハモドキのように究極的に美しいのもあれば、Glanycus insolitusのように毒々しいのもあり、そういう“侘び寂び感”が蛾の魅力という気がします。
法師人 響(昆虫写真家)
合理性と生き物クサさのギャップに、萌え。
高校生の頃、近所の河原で見つけたカラカネチビナカボソタマムシという虫がそれまで茨城県内で観測記録がなかった虫で、大発見だったんです。趣味の虫捕りが科学に貢献できたことが嬉しくて、世界の解像度が一気に上がりました。以来、虫の世界に夢中。
ツダナナフシはソフビ人形みたいな質感がすごくかわいい。一般的なナナフシは木の枝に紛れるように長い脚でピョコピョコとリズムを取って歩くのに、このツダナナフシはそんなことはまったくお構いなしにザザザザッと猛烈に直進。
単為生殖の昆虫なのでクローンで合理的に子孫を残すのに、歩く姿には生き物クサさがあって、そのギャップに萌えちゃいます。オオイクビカマキリモドキは上半身と顔はまんまカマキリで、胸の前で前脚を折り畳むように格納。さらに下半身はアシナガバチに似た外観という、属性てんこ盛りのフォルムがたまりません。
メレ山メレ子(エッセイスト)
20年の付き合いも夢ではないムネアカオオアリ。
旅先のハノイで巨大ナナフシと出会った興奮をブログに書いたことから、昆虫写真家の海野和男さんはじめ、昆虫好きの方々との交流が生まれました。薦められてイモムシやゲンゴロウも飼育しましたが、最も長く飼っているのは「AntRoom」で購入したムネアカオオアリのコロニーです。
卵を抱えた女王を購入してから9年目ですが、働きアリが繭(まゆ)から羽化する姿や幼虫を甲斐甲斐しく世話する様子は、見ていて飽きません。女王アリの寿命は10~20年ともいわれ、すべての昆虫の中でも極めて長寿です。
一方、まだ見ぬ憧れはカタゾウムシ類、中でもフィリピン原産の美麗種たち。水玉やシマシマなど、象嵌(ぞうがん)のように美しい模様を持つ生体をいつかはこの目で見たい。日本の八重山諸島にもクロカタゾウムシという種がいますが、こちらはマットな黒一色の愛らしい姿です。
本間良二(スタイリスト)
トップスピードからの急旋回に惚れ惚れ。
神奈川県の森の中で山荘暮らしを始めて3年目。周りに民家もない山の中にいると、自分は虫の世界に来てしまったのだと強く感じます。4月を過ぎると、開け放したリビングの窓から我が家を頻繁に訪れるのがギンヤンマ。
彼らは単独で現れるのですが、見ているとすごく好奇心が旺盛。そしてトップスピードを保ったままほぼ180度方向転換するターンのキレが、とにかくすごい。その角度とスピード感といったら、それまで見たどんなプロサーファーのターンよりも素晴らしい。
ギンヤンマの4枚の翅(はね)は前後左右別々に動くようで、その動きはまさに、より深く鋭角なターンを可能にする4本のフィンを持つクワッドボードのそれ。僕もあんなに素早く滑らかなターンができるようにならないかなぁ、なんて考えていると、いつまででもボーッと眺めていられるんですよね。