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米NYの〈グッチ ウースター ブックストア〉。緞帳の向こうに広がる、美と知の隠れ家へ

世界的に名を馳せるメゾンがブティック内に本屋を開いた。ブランドの世界観に沿うビジュアルブックが百花繚乱。そもそもファッションも本もアートの一つ。だから実は境界線はない。服を選ぶように本を選ぼう。

Photo: Nicholas Calcott / Text: Mika Yoshida&David G. Imber

東側から入ると、〈グッチ ウースター〉。しかし建物の西側から入ればブックストアが現れる!〈グッチ ウースター ブックストア〉はファッションと書籍、2つの空間が緞帳を介して緩やかにつながる、美と知の隠れ家だ。

ニューヨーク〈グッチ ウースター ブックストア〉薬局をイメージした内装
昔の薬局をイメージした内装。

場所はソーホーのど真ん中。2018年11月の開業以来、斬新な店舗形態、そして磨き抜かれた本のセレクトが人々を魅了し続ける。グッチが監修を依頼したのは、写真集の権威〈ダッシュウッド・ブックス〉。

「80年代ソーホー、そしてグッチと関係の深いアーティストたちを当初、選書の軸にしました」と語るのは創業者のデヴィッド・ストレテル氏。なるほど、正面玄関を入ってすぐ現れる平台にはペイジ・パウエルやダッパー・ダンなど、グッチとコラボレーションした人々の作品集がズラリ。

そして左に足を進めるとグレース・ジョーンズの顔がドーン!アンディ・ウォーホル主宰『インタビュー』誌の表紙を描いたイラストレーターの作品集だ。このコーナーではジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングといった80年代アイコンの本も平積みで、ソーホーのカルチャーシーンが最も刺激的だった時代を書棚が体現する。

興味深いことに、グレース・ジョーンズの横には今が旬のメイクアップアーティストの写真集が陳列され、奥にはジョージア・オキーフの本が。文化の系譜も伝えてくれる書棚なのだ。

今年14年を迎えた〈ダッシュウッド・ブックス〉は、日本をはじめ世界中からプロの目利きが足を運ぶ、ビジュアル本の聖地。一方〈グッチ ウースター ブックストア〉を訪れるのは、グッチへ買い物をしに来た人、そしてたまたま入ってきた旅行者の割合も高い。

ストレテル氏にとって新鮮でやり甲斐のある客層だ。「写真集や美術書と縁の薄い人に、少しでも興味を抱いてもらえれば」。だからこそファッション本の脇に往年の写真ジャーナリスト、ビル・オーウェンスの作品集やジョナス・メカス、ガス・ヴァン・サントといった映像作家のレア本も並ぶ。洋服を買いに来た人も、写真や実験映画の教養がいつの間にか身につくというわけだ。

同氏が「これぞ私にとっての“ファッション本”」と取り出したのは、アフリカの写真家マリック・シディベの『シュミーズ』。マリの若者文化を撮影した1960~70年代のモノクロ写真をアルバムの形で構成した本だ。「友人のデザイナーやスタイリスト、ヘアメイクはこの本から多大なインスピレーションを得たよ」とニッコリ。

かと思えばゲルハルト・リヒターの『Abstract Painting 825-II』や大竹伸朗の『ぬりどき日本列島』と『ビル景』もご推薦。「多種多様な文化を、一つにまとめ上げられる力こそ、グッチが成功したカギの一つだと思います」。グッチの姿勢は本屋にも。多様性あふれる書棚が人に語りかけ、知の旅へと導く書店なのである。

ニューヨーク〈グッチ ウースター ブックストア〉店内
グッチがソーホーに開いた〈グッチ ウースター ブックストア〉。ヴィンテージ空間を2,000冊もの本が占める。ビジュアル本の権威〈ダッシュウッド・ブックス〉オーナーの選書だ。