ジワジワと作り手をつなぐ。目指すは「羽根付き餃子」戦略?
齋藤精一
万博の「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに対して、何をデザインすべきかという議論を重ねました。
服部滋樹
毎回8時間ほどかけ、いろんな話をしましたね。
倉本仁
万博は「新しい発想をみんなで共有する場所」。今はネットで多くの知識に出会えますが、リアルは解像度の高い体験が魅力。
様々な展示が一堂に会する大阪・夢洲(ゆめしま)の万博会場と全国各地で行われている研究やプロジェクトがつながるようになればいいね、というアイデアを覚えています。
服部
会場がツアーのコンシェルジュ役になり、各地域へ最先端を観に行くような地域資源の価値を促すような。会場内に地域パビリオンがあるだけではなく全国に点在するイメージも話しましたね。
齋藤
その結果、もの作りに携わる全国の中小ベンチャーにも呼びかけて公募制でこの『コ・デザインチャレンジ』を実施し、僕たちが選定を担うことになりました。
柴田文江
中小企業のもの作りは素晴らしいのに、万博という大きな催しには入りにくいみたい。私たちデザイナーも役所のしきたりなど知らないし、万博から距離がありました。
そこに「万博をどうせやるなら、その後にいいものを残しましょう」と齋藤さんから誘われて関心を持ったんです。
齋藤
僕、柴田さんの「羽根付き餃子」の比喩に感心して(笑)。
倉本
なんですか、それ?
柴田
これまでの万博が国や大企業がデンと中心に構えるだけとしたら、今回は私たちが黒子で「餃子の羽根」みたいなものをジワジワと周囲に広げるイメージ。
服部
すごくわかりやすい!
倉本
餃子の羽根をどれだけ広げられるか。関わる人たちが増えれば、横のつながりも自然にできます。誰かが知らないところで作る万博にしてしまったら、決して成功しないと僕は思うんです。
粗削りで未完成なパワーが世の中を変えていける
齋藤
選定したプロジェクトをアドバイザー4人で分担してフォローし、もの作りを進めているのはどんな状況ですか?
柴田
私たちはデザイナーとして手は動かさないで、公募で選ばれた企業の人たちの案を一緒に考える伴走役。「デザイナーと関わるとこんな発見があるんだ」という声がモチベーションです。
服部
まさにそう。これまでのもの作りのやり方は経済効率で決まってきたから、そこにメスを入れるチャンスだと捉えています。実現したい思いがあり、物事の始まりまで遡り、新たな経路を構築し、関わる人々に丁寧にお声がけしています。
倉本
これまでにない新しい仕組みや新素材を、共創で社会に実装できるか。デザインチャレンジという名の通りに「挑戦」ですね。
柴田
洗練されているわけではないけど、そこがいい。最初はデザイナーが関わるならバシッとカッコよくしなくちゃいけないかなと思っていたけど、頑張って挑む姿を見せる方がいいと感じました。
齋藤
ちゃんと説明しなくちゃわからないものもたくさん出てくると思うんですよ。でも、それは現場で補足すればいいだけ。
服部
スマート回収箱のアイデアはまさにそう。担当は誰かな?
倉本
僕です。ごみを集めてどうするかという発想が抜けていて、最初は小さな循環でしか回らない案でした。ごみを集めて、どうすると誰が喜ぶか。これを考えるのもデザイン、と話し合いました。
柴田
そんな背景をそのまま出せるといいかも。企業でもプロダクトの試作展などをやるじゃない。ああいう試みと同じ面白さがあると考えたら、少し気が楽かも(笑)。
齋藤
ぶっ飛んでいて「これをどうするんだ?」みたいな提案もあるけど、実はそれも面白い。その体験から新しい発見もあるはず。
服部
ヒントって案外そういうこと。完成品だとそうはいかない。
倉本
未完成なものから可能性を見出せるといいですよね。
柴田
じゃ、私たちのテーマは「未完成万博」でどう?
一同
(笑)。
齋藤
結局、会期後に何も残らない万博にはしたくない。地域の取り組みや知恵、サーキュラリティやシェアといった発想の可能性を伝えていきたいです。
「Co-Design Challenge」とは
「これからの日本のくらし(まち)」を考える、大阪・関西万博の公募デザインプロジェクト。中小メーカーやスタートアップなど、多彩なプレイヤーの「共創」によって、新たなモノを万博会場で実現させる。
ベンチやごみ箱、トイレといった物品やサービスを新たに開発し、社会課題の解決や、万博が見据える未来社会の実現を目指す。全国58の企業・団体から79件の応募があり、以下のプロジェクトが選定され、アドバイザーたちとともに開発進行中。