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自然に還りたいのに還れない。ノリ・タカバヤシが組み上げる、儚さと美しさを秘めた漂流物アート

直径約160cm、重さ100kg超の巨大シャンデリア。これが、海辺に打ち上げられた漂流物だけでできているというから驚きだ。手がけたのは、『BRUTUS』本誌のファッション特集号でも活躍する、ヘアスタイリストのノリ・タカバヤシさん。海の漂流物に再解釈を加えたシリーズ『The Transient Beauty』を発表するなど、アーティストとしてのもう一つの顔がある。

photo: Masato Kawamura / text: Keiichiro Miyata

初の個展はパリ。2019年に日本古来の髪の結びを表現した『MUSUBI』を発表し、それ以来、意欲的に創作活動を行ってきたノリ・タカバヤシさん。大きな転機は、2020年のこと。

未曾有のパンデミックのなか、拠点をフランスから日本に移し、海がほど近い千葉県に移住。ある日、近所の浜辺を散策中に打ち上げられている漂流物を見かけた。「人工的に作られたものが劣化し、もはやは原型がわからなくなっている。その姿には、自然に還りたいのに還れない儚さと美しさがありました」。直感的に心が動き、創作意欲が湧き上がったという。

それから、多忙な日々の合間をぬってこまめに漂流物を収集し、地道にマスクやシャンデリアを組み上げる制作が始まった。

ノリ・タカバヤシさんの作品
ノリ・タカバヤシさんの作品のひとつ。溶けたプラスチックなどの漂流物を組み合わせたシャンデリア。

どこかで不要とされた漂流物が、シャンデリアに生まれ変わる

作品に使用されるのは、カラフルなおもちゃのパーツや、何らかの熱によって溶けた生活用品の破片など、ノリ・タカバヤシさんの視点でかたちやテクスチャーが面白いと思って拾い集められたもの。

海流や潮風に運ばれているうちに劣化し褪色した漂流物に「何か特別なエネルギーを放つ存在が混じっているんです」と感じ、珍しい天然鉱石を探すハンターのように、世界で一つだけの形や色を直感的に拾い集めていく。

そのため「昨今のSDGsや、サステイナブルといった環境保全の流れを意識して集め、作り出したわけではありません」というスタンスで、創作を行ってきたそう。

漂流物を回収するかの基準は、子供の頃に自分の手にしっくりとくる小石を海拾い集めた、あの頃のような感覚。「打ち上げられたゴミを拾い、太陽にかざして透かしてみたり、手触りを確かめたりして、自分の気に入ったものを回収しています。そうやって、一回海に行くと、だいたいスーパーのカゴ3つ分くらいの“戦利品”が集まります」

拾い集められた漂流物
拾い集められた漂流物。色や形状、テクスチャもさまざまだが、いずれもノリ・タカバヤシさんが“何か”を感じて回収したもの。
©️ Nori Takabayashi

今も作業部屋の一角には、収集物の数々が保管されている。これを丁寧に色分けしてから、制作作業が始まる。

「作品を近くで見ていただくと、見覚えのある身近な生活用品の破片も含まれています。その素材や、劣化の具合によってパーツごとに透過度が違うため、意図せずに光のグラデーションが生まれるのも特徴です。特に制作に時間を費やしたのが、巨大な白いシャンデリア。波によって削られ、潮によって朽ちた、1000個以上の海洋プラスチックが連なっているので重量は100kgを超えます」

ノリ・タカバヤシさんのイマジネーションを体感できる展示が開催

シャンデリアだけでなくランプシェードやマスクなど、ノリ・タカバヤシさんのイマジネーションにより、観る者の価値観を広げる全10点の作品が並ぶ展示『EXPLORE ANOTHER WAY -NORI TAKABAYASHI-』が、大阪の〈THE NORTH FACE 堀江店〉で開催される。

「火を囲むように、何か心に灯す演出にできたらなと思い、展示用のBGMを音楽家・角銅真実さんに依頼しました。角銅さんとは、いつも漂流物を回収している茨城県の浜辺に一緒に行き、フィールドレコーディングも実施。そこでサンプリングした音がBGMのどんなアクセントに使用されたかは、私も開催当日までわかりません」

かつて誰かに大切に使われていたかもしれない漂流物たちが、海を彷徨い、遠く旅してようやく浜まで辿りついたその記憶と逞しさ、そして何より圧倒的なエネルギーを目でも耳でも感じ取れる展示となっている。

ノリ・タカバヤシさんの作品