俳優の柄本佑さんが役を演じるうえで大切にするのは、現場に身を委ねること。前もって理詰めで役を解釈することはせず、セリフを日常レベルで体に溶かし込んだあと、自然体で撮影初日に臨むのがスタイルだ。
「台本ができて、衣装、持ち道具、ヘアメイク、と具体的なパーツが決まっていても、やっぱり、現場で役になって、セリフの一言目をしゃべったり、体を動かしたりした瞬間に得られる感覚が一番頼りになる。監督や役者たちと呼応しながら、キャラクターが出来上がる過程が楽しいですね」
新作で“ムカつく男”を演じた柄本佑が、心奪われた悪役とは
アニメ業界を舞台に、新人監督と天才監督が、業界の「覇権」をかけしのぎを削るさまを軽快に描く新作映画『ハケンアニメ！』。柄本さんは、吉岡里帆さん扮する新人監督を叱咤するプロデューサーの行城理を演じた。
「僕は普段、役や作品に共感をすることはそう多くないんですが、作り手たちの苦悩と奮闘に焦点を当てたこの作品は自分にとって近い世界の話。監督、プロデューサー、制作会社、それぞれが抱える生みの苦しみは、どこかわかるような気がしましたね」
監督たちが昼夜を問わずアニメ制作に心血を注ぐ中、監督の苦しみを知ってか知らずか、冷徹にビジネス最優先で事を前に進めるというのが行城の役どころだ。
「意識したのは吉岡さんの悔しい顔を引き出すこと。ムキッとした時にすごくいい表情をされるんですよね。容赦なく“ムカつかせる”方針で、監督と相談して、現場でセリフを変えたり、アクションを加えたりしました」
情け容赦なく、なぜだか色っぽい
観賞者としても無類の映画好きとして知られる柄本さん。『ハケンアニメ！』の行城は、チームのため、ある意味では悪役を買って出る役とも言えるが、映画を観るうえでも「憧れるのは、主役よりも悪役」なのだという。
「好きな悪役と言えば、『北国の帝王』（'73）のアーネスト・ボーグナイン。不況下のアメリカの貨物列車を舞台に、職を失った放浪者たちの無賃乗車を取り締まる鬼車掌を演じています。車内で彼らを見つけ次第容赦なく惨殺するんですが、表情がめちゃくちゃ怖い！そこに惹かれます（笑）。あと『ザ・バニシング −消失−』（'88）の悪役も好きですね。彼は、人が苦しむ様子を観るよりも“想像する”ことに快感を覚えるサイコパス。とんでもないやつですが、なぜだか色っぽくて」
役を演じる時に、意図的に過去の作品を参考にすることはないが、「観てきた映画の記憶は、確実に体に染みついて、知らないうちに演技にも良い影響を及ぼしてくれているはず」だという。いつか、柄本さんが情け容赦ない悪党を演じる日も来るかもしれない。
