Talk

Talk

語る

旧知のエリイと齊藤工が互いの創作について対談。ナラッキーはスイート・マイホーム?

Chim↑Pom from Smappa!Groupのエリイと、10年来の親友である俳優・映画監督の齊藤工による対談が実現した。場所はおなじみ新宿・歌舞伎町。アート展覧会『ナラッキー』を開催する築60年は経とうかという〈王城ビル〉での対談は、思いもよらぬ話も飛び出して……。

photo: Masaru Tatsuki / styling: Shinichi Mita(Saito) / hair&make: Shuji Akatsuka(Saito), NEMOTO(ellie) / text: Kazuaki Asato / edit: Asuka Ochi

現代社会の矛盾をポップに切り取り、尋常ならざる軽やかさで表現し続けるChim↑Pom from Smappa!Group(以下、チンポム)。彼らは現在、歌舞伎町に立つ築年数約60年の〈王城ビル〉で、アート展覧会『ナラッキー』を開催している。

そのチンポムのエリイと、10年来の親友である俳優・映画監督の齊藤工による対談が実現した。多数のアーティストと共に、ビルを貫通する吹き抜け=奈落をポジティブに読み替えていく『ナラッキー』。かたや、齊藤の監督最新作『スイート・マイホーム』は、“家”というセーフスペースが、恐怖や危険を感じさせる場所に転覆しかねない酷薄な現実を映す。

まったく異なる表現領域にいながら、互いのアティチュードと表現をリスペクトし合う“エリイ”と“タクミ”。そんなふたりが改めて語る、表現をする意味とは?

瞬発力で凌駕するチンポム

エリイ

タクミと出会ったのは2012年に写真家のレスリー・キーのイベントで、そこからずっと友達だよね。展覧会も国内のは全て見に来てくれてる。

齊藤工(以下、タクミ)

最初に会ったときはエリイのホットパンツ姿が、ほぼはいてないみたいだったのを覚えてる。あれから10年以上経つけど、ずっと家族ぐるみの付き合いだね。

エリイ

はいてないと言ったら、今年も3回くらい一緒に海行ったけど、最後に行ったときはクラゲがもう出てたね。リラックスしたくて海の中で水着を脱いでいたら陰部のあたりを刺されて。痛!って陸に上がって。

タクミ

助けてって言われても、自分たちには何もできるはずがない(苦笑)。別のときは突然エリイが「次の展覧会のタイトル考える」って、一人でずっと海に漂ってた。45分くらいかな、遠くから見ると頭が釣りの浮きみたいにぷかぷか浮いていて、周りの人は泳いでるんだけどそこだけ固定されていて。アイデアを釣り上げるのをじっと待ってるみたいだったな。あのとき『ナラッキー』ってひらめいたんだっけ?

エリイ

その前から「ナラッキー」って言葉は出てたんだけど、他に何か当てはまらないか確認するために、海と空に浸って端から端まで探しまくってた。今回の展覧会は、何かやろうっていうのは前からなんとなくあったんだけど、本格的に動いたのが2カ月ぐらい前で。かなりギリギリまで準備してた。

タクミ

それであんなすごいアーティストを集めて形にするんだから機動力がすごいよ。『スイート・マイホーム』は4年前から動いてて、ようやく公開できたから。

エリイ

直前になるともっと前からやっておけばよかった!とか思うよ(笑)。でも前もってやってもあんまり変わらなそう、ウチらの場合。その分チンポムは瞬発力で凌駕していくしかない。

ナラッキー 展示

タクミ

チンポムは常にそのタイミングにやるべき表現を見せてくれるからワクワクする。一方で、映画は製作期間が長いから、時代に合わせるとどうしても遅れてしまう。

ただ今回の映画は、製作中にコロナ禍に入って、本来安心できる場所であるべき家が、地獄になる場合もあると可視化されたタイミングでもあって。だから、この作品も今、世に出すべきだって信じられたな。

観客の腸を引きずり出し、スクリーンが飲み込む映画?

エリイ

家ってさ「誰か入ってきてんじゃね?」っていつも思うんだよね。風呂上がりとかにベッドから天井の隅やドアの隙間の向こう側を凝視しながら音に耳を澄ませたりして。子供の頃から、一人でいるときは家を安心だと思ったことがなくて。悪いことを企んでいる人間が入ろうと思ったら簡単に入れるじゃん。だからすでに誰かいる前提で過ごしてる。

今回のタクミの映画で「ほら!そうでしょ。一番大丈夫と思い込んでた場所が違ったでしょ」っていう共感というか、安堵が心に広がったりして。

タクミ

そんなふうに感想を言ってもらったのは初めてだな。

エリイ

家は安心だと考えている人の方が圧倒的多数だし、実際何も起きない確率の方が断然高いのは分かるんだけど、私は隙あらばホテルに泊まってる。でも、『ナラッキー』の制作期間中は歌舞伎町に泊まりすぎて、家に帰ろうって生まれて初めて思った。それは多分、子どもが生まれたからだろうな。前はどんなに泊まったってそんなことを思わなかった。

タクミ

自分も本当はキャンピングカーで全国回りながら、仕事のときだけ東京に来る生活がしたくて準備してたんだけど、コロナでいったんナシになって。

エリイ

なんで定住したくないの?

タクミ

『ガンニバル』じゃないけど、その地に根ざすというか、土地と契約する心づもりがまだできてなくて。今でもノマド生活のチャンスはうかがってる。

エリイ

土地との契約か!その感覚分かる。タクミは自然も都会も好きだよね。吟味してるのが分かる。私の場合、今はたまたま母や親戚が生まれ育った場所だったりするんだけど、感覚は契約とは程遠いのに、子供を育てるようになってから足に紐を括られた鳥になったような感じがしてる。人によっては身軽に移住しまくれるわけだし、そこは自分の性格を感じるな。最近の心の救いは自転車。すぐ隣町に行けるから、精神的にいいんだよね。

タクミ

場所と繋がってしまう怖さは、今作のテーマの一つでもあって。『ナラッキー』も王城ビルの横にある弁財天のお参りから始まるけど、この映画も地鎮祭で始まる。つまり、場所との契約なんだよね。でも、契約するときには、場所の本当の姿は見えないという恐怖があるよなって。

エリイ

自ら望まなくとも、気づけば契約してしまった、という引力も、土地や場所は持ってるよね。

タクミ

でも『ナラッキー』の場合は、恐る恐る入っていった来場者たちで、ビルが活性化するさまが面白かった。フロアごとにいろんな展示=臓器があって、見る人たちが血液のようにビル内を動き回る。さらにビルの外と繋がる仕組みもあったりして。アートの展示は、映画と違って動きながら見られるのがいいなとも改めて思った。

エリイ

ビルは生きてる。どんな建物もね。でも映画は座ったり横になったりしながら精神をどこまでも連れてってくれるじゃん。『スイート・マイホーム』はすごい没入感だった。最初は、隣に座るおじいさんの腸の音がめっちゃ聞こえて気になってたんだけど(笑)。

タクミ

わりと静かな映画だから、観客席の音は目立つかもね。

エリイ

その静かさがタクミらしいなぁと思って。最初はその腸の「きゅるきゅる」って音が気になってたんだけど、映画が静かな地ならしを終えたら、一気にあの不穏な家の中に、観客全員を引きずり込んでいくんだよね。そのとき、おじいさんの腸も一緒に全員でどぅるどぅるってドアに入り込んでいく一体感があって、それが気持ちよかった。

タクミ

あの家にはたしかに身体のイメージを重ねてて、たとえば物語のキーになるデッドスペースは子宮に見立ててたりする。だから、腸が引きずり出されるっていうのもすごくリンクしてる。あと、本作のもう一つのテーマが母の愛の深さというか、ある種の業の部分だったんだ。それは原作から読み取ったことだけど、同時にエリイがお母さんになっていく過程を間近で見た影響も大きかったよ。

日々は“今”にどう集中するかの挑戦

エリイ

『スイート・マイホーム』のパンフレットに上海国際映画祭のティーチインのことが書いてあったよね。「(前作の)『blank13』も母の物語でこれも母を描いているが、齊藤監督は母性や母というものに何かを感じてものづくりをしているんでしょうかという質問が出てハッとさせられた」って。インタビューとか対談とかもそうだけど、作品についての質問によって気づかされることってあるよね。

タクミ

そういう質問はありがたいよね。

エリイ

作品を関連して繋げたり広げたりして見てくれたりするから、あ、そういう解釈があるんだって本質に辿り着いたり。上海の人たちもそうだよね。ありがたい。タクミのお母さんって知識も深くて本質を見抜くでしょう。お茶目さも合わせてめちゃくちゃ面白い。お母さんに対してはどういう思いを抱いてるの?

タクミ

母親の体内から出てきた自覚がすごいあって、自分は母親と同じフォーマットでできた人間だなっていうのはすごく感じる。思考も感覚も、同調してる感じが強くて、よく言えば誰よりも深く理解し合っているんだけど、少し怖さもはらんでいるというか……。

言葉がなくても感覚を共有できちゃうからこそ、言葉を交わさないところはあるかもしれない。だから、ここ数年は作るもので会話してる感覚があって。

エリイ

いくら「元気だよ」って言っても見抜かれる関係だから、言葉が意味をなさなかったりする。

タクミ

うん、これはエリイもそうだけど、普段の与太話だけじゃなくて、表現を共通言語にしてコミュニケーションできる人は貴重で。自分の場合は、母親もたまたまそういう存在だった。言葉なき会話で繋がれる人がいるから、自分は表現を続けてるんだと思う。結局それがいちばんプラトニックな関係でいられる方法だから。

エリイ

クリエイティブを探求する態度って、人と人のコミュニケーションツールでもあるよね。表現の高みに上っていく角度は違えど、想像が働くから尊敬へ繋がっていく。相手のことが好きとか、一緒にいて楽しいのはもちろんだけど、お互いにリスペクトが介在しているから一緒に見られる景色がある。

すごいなって思うのが、タクミとはこの10年の時間を過ごしてきたじゃん?なのに、出演作や監督作を観ると、いつの間にタクミってこんな仕事してたんだろ?こんなこと考えてたんだ、って新鮮に思うんだよね。時間が飛んでるというか、一体どこにそんな時間があったの!?って。

タクミ

自分もチンポムの作品を見るたびに、知らなかったエリイの姿を知って、作品を通してコミュニケーションしてるよ。そんなエリイのずっと変わらない魅力は、今この瞬間を、お釣りがくるくらい味わい尽くそうとするエゴだなと思ってる。欲望に忠実かつクレバー。

エリイ

「お釣りがくる」って腑に落ちるなぁ。いつも「時間」とその「納得」に対してアプローチをかけてるんだけど、それを形容する言葉が見つからなかったから。やっとしっくりくる言い方が見つかった気がする。

タクミ

今年の夏もすごく早くから始めてたし。

エリイ

そうだね。7月、8月って土日は16回ぐらいしかないじゃん。徐々に夏を始めると盛り上がった瞬間に終わってしまう。もうちょっと楽しみたかったなっていう気持ちは私には向いてないから早いうちからがっつり遊ぶ。

タクミ

楽しみたいっていう本能を満たすために、ちゃんと逆算して計画を立てるロジカルさだよね。それはエリイのすべてのアウトプットにも繋がっていて。みんなアレコレ言い訳して、自分の人生を薄味にしちゃうんだけど、エリイは濃いエスプレッソを抽出して飲みまくる。その姿勢に自分は最大の影響を受けてるよ。

エリイ

チンポムのメンバーで会議してても、100年後はもう絶対こうやって集まれないんだなってサイゼリヤでつまみながら考えているふりをして眺めてる。いつメンバーが欠けても不思議じゃない。そう思うと今を生きることに、どれだけ集中するか、日々がその挑戦って感じ。

エリイと齊藤工

タクミ

死を思うからこそ、生をまっとうする。それは『ナラッキー』にも通ずる気がした。奈落の底こそが、楽園に反転する可能性を秘めてるというか。

エリイって、お釣りがくるくらい楽しもうとするめちゃくちゃ堅実な主婦目線と、「楽しみたい!」という欲に忠実な女の子の面が同居してるから最強なんだって、今回改めて思ったな。

エリイ

生きてるとやっぱ気が散っちゃうこといっぱいあるじゃん?でも、誰も自分の人生を代わってくれるわけじゃない。楽しみ尽くしたいから納得してやり切る。

タクミ

やっぱりエリイが言うと説得力があるね。

エリイと齊藤工
齊藤 工 衣装/ジャケット69,300円、シャツ37,400円、パンツ49,500円(すべてsuzuki takayuki TEL:03-6821-6701)、靴スタイリスト私物。