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“墓場行き”の服に価値を見出し、魂を吹き込み送り出す。小沢宏さんの店、長野〈エディストリアルストア〉

「デッドなものをライブにする」。このショップの根源にもなっている言葉だが、アライブではなくあえて“ライブ”という音楽的表現にするあたりから、雑誌に携わってきたプロのにおいを感じずにはいられない。スタイリストとして活躍する小沢宏さんが、40年ぶりに帰郷し、2022年オープンさせたお店〈エディストリアルストア〉は、“雑誌の3D化”をテーマに、ほかでは実現不可能な商品構成で一目置かれている。

photo: Yasuyuki Takaki / text & edit: Yu-ka Matsumoto

雑誌を作る感覚をそのまま店内に置き換えて再現する

「例えば雑誌では、ビームスやジャーナルスタンダードのオリジナルの服とネペンテスの服なんかをごちゃまぜにして掲載しているし、実際に消費者もそうやって着ているじゃないですか。でもそんなラインナップのお店はどこにもないですよね。ここでは雑誌と同じように、リースを仕入れに置き換えて、借りてきたものを買い取ってお店に並べる。

そんなイメージだから、このラインナップが成立しているのかも。新しいものや古いもの、値段の高い安い。そういう価値観じゃないところでファッションを表現するのがスタイリストだから、その感覚をお店にしたら面白いかも。それって雑誌の3D化だなって思ったんです」

世の中には、売れ残りをそのまま廃棄したり、サンプルとして作って、製品化できずに放置したり。または生地のままで、日の目を見ないものもたくさん存在する。小沢さんは、そんなアイテムに注目し、時代にフィットするものを掘り出して商品として蘇らせている。

「ファッションブランドで眠っている経年在庫の“デッドストック”をスタイリング感覚で仕入れて“ライブストック”として展開しています。ほかには、B品に“Bグレード”、リメイクに“マッシュアップ”って言葉をつけて商品の下げ札に。その下げ札には、雑誌のキャプションと同じく、一点ずつ商品の特徴を手書きの文章で入れているんですよ」

すべてを雑誌に置き換えると、いろいろな概念が解き放たれて立体的にアイデアが広がっていくんだとか。

「2階の常設フロアは、“連載”だし、3階のポップアップスペースは“特集”と呼んでいます。ここに置かれているものは、今年のものなのか、3年前のものなのか、きっと気づかれないんじゃないかな?そういう時代性を感じさせない商品選びをしています。やっていることは循環なんですが、別にSDGsは意識していません。ここは僕が感じる疑問点を課題解決しているお店なんです」

長野 EDISTORIAL STORE 店内
もともと小沢さんが使用していたキャビネットをカスタマイズして、2階のレジカウンターとして再利用。左のディスプレイラックは、かつてビームスの店頭に置かれていたもの。