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都心のホテルから日本のナチュラルワインを発信。若きソムリエ、矢田部匡且のペアリング術

2022年5月16日発売のBRUTUSは 「ナチュラルワイン、どう選ぶ?」特集。外資系ラグジュアリーライフスタイルホテル〈東京エディション虎ノ門〉に、日本のナチュラルワインを精力的に紹介するソムリエがいる。イノベーティブな多国籍料理に日本のワインを果敢に合わせ、自らの足で集めた生産者の声をゲストに届ける。その試みの面白さ、日本ワインの魅力を聞いた。

photo: Kenya Abe / text: Yoko Fujimori

都心のラグジュアリーホテルから
日本のナチュラルワインを発信する。

2020年10月にグランドオープンしたラグジュアリーライフスタイルホテル〈東京エディション虎ノ門〉。言わずもがな、〈エディション〉はニューヨークの伝説のクラブ〈スタジオ54〉を創設したイアン・シュレーガーがクリエイティブディレクションを手がける世界的ホテルブランド。この〈東京エディション虎ノ門〉開業当初からヘッドソムリエを務めるのが矢田部匡且(やたべ・まさかつ)だ。

彼がオープン時からゲストに提案しているのが、ホテルのレストラン〈The Blue Room〉での「日本のナチュラルワインとのペアリング」。名だたるグラン・クリュをストックしているイメージが強い5つ星ホテルで、小規模生産のナチュラルワインを、しかも日本のワイナリーのものを数多く揃えるホテルはまだまだ珍しい。

何より、外資系ホテルのヘッドソムリエが、地方のワイナリーを巡り、生産者と言葉を交わして数本づつ地道に買い付けるという、そんな土臭い動きをしているのが面白い。

「国内のワイナリーを訪ね始めたのはソムリエになった10年前頃からです。今まで40〜50箇所は廻ったでしょうか。日本ワインはこの10年で格段に品質が向上して、どんどんすごい作り手が出てきています。仏・ブルゴーニュやオーストラリアといった海外でも同じことは言えますが、特に日本はこの10年での躍進が顕著です。

今や山梨や長野、新潟、北海道など、地方ごとに作り方が完全に異なり、それぞれの産地に根付いたもの、適した方法を理解してワイン造りをしている。それが明確に味わいに反映されているのが、日本ワインが面白くなっている理由でしょう。だから今こそお客様に紹介したいと思ったんです」と矢田部。

ナチュラルワインは生産規模が小さく、入手できる本数も限られるため、「ワインリストも週1のペースで印刷し直しています」と笑う。

矢田部は西新宿の〈パークハイアット東京〉に入社したことを機にホテルの世界へ足を踏み入れ、その後カリフォルニアワイン専門のバーに職場を移し、ソムリエ資格を取得。

ナパバレーのワイナリーを巡り、持ち前の探究心から日本国内の作り手を訪ねる旅もスタートする。〈ジャン ジョルジュ トウキョウ〉、〈ピエール・ガニェール東京〉というミシュランの星付きフレンチでシェフソムリエを歴任し、グランメゾンの料理とワインとのマリアージュについて徹底的に学んだ。

〈東京エディション 虎ノ門〉のワインリスト
現在オンリストされる日本産ナチュラルワインは50銘柄ほど。入荷本数が少ないのはナチュラルワインの宿命。週1回ごとに最新版のリストに印刷し直される。

ラグジュアリーホテルでの“ナチュラルワインの提案”は、ホテルとグランメゾン両方を識る矢田部の10年の集大成であり、タイムリーな挑戦として納得がいく。それにしても、カジュアルな印象のナチュラルワインを、ファインダイニングの皿に合わせる難しさはないのだろうか。しかも〈The Blue Room〉のジャンルはイノベーティブな多国籍料理だ。

「ええ。多国籍料理だからこそフレキシブルに合うワインを見つける必要がありましたし、やがて国産素材に合わせる日本のワインを探し始めたことがペアリングのきっかけになりました。確かに多国籍料理との相性は実際に試してみないと判断しづらいですし、ナチュラルワイン特有の土っぽさやスパイス感を考えて、素材から使用する調味料まで料理全体を把握しないとイメージするのが難しい。


ペアリングはワインの質と味わいの表現、そして料理に見合う“格”が重要なので、フレンチベースの料理ならシャンパーニュやブルゴーニュなどオーセンティックなフランスワインを合わせた方が無難です。でも、そうでない表現ができるのがたぶん今なんじゃないかと」

ペアリングメニューは〈The Blue Room〉のアラカルト(一部はコースメニューも)に合わせ、スパークリング、ロゼ、白、オレンジ、赤などを提案している。いずれも実力が高く評価される人気の作り手ばかりだ。「フレンチやイタリアンがベースの料理でも、日本の食材を使っていればどこか会席料理のようなニュアンスが出てきます。だから日本ワインとマリアージュさせるとピントが合ってくる」と矢田部。

たとえばシグネチャーディッシュの「ケールサラダ」には、〈タケダ ワイナリー〉の清らかなスパークリング「サンス フル」を。無濾過特有の旨味とコクが、ケールの苦味、味噌やピーカンナッツのドレッシングと共鳴する。見た目も色合いも愛らしいグリッシーニにはサンジョベーゼ100%で造る〈カンティーナ リエゾー チャオチャオ〉の華やかなロゼを。

ホタテにピスタチオをたっぷりとまぶした「ホタテとピスタチオ」には、ふくよかでクリーミーな「ファンキー シャルドネ シャルドネ」で甘みとナッティさを受け止める…といった具合。一皿ごとの味わいの広がりに心が踊り、そしてもちろん、ワインそのもののポテンシャルの高さに驚かされる。

「コロナ禍で海外ゲストがいない環境だからかもしれませんが、実はお客様のレスポンスが一番良いのが日本ワイン。お客様の故郷の産地のワインをお出しすると、“知らなかった”“こんなにおいしいなんて”と喜んでくださる。励みになりますね」

テロワールを体現する日本各地のワインを紹介することは、まさに「その土地の文化や社会的背景を反映する」という〈エディション〉の精神とリンクする。デイリーな印象のあるナチュラルワインを、ファインダイニングの料理とペアリングさせる試みも、星付きレストランで経験を積み、マリアージュが何たるかを理解する矢田部さんの手腕あってこそだろう。

日本酒の地酒のように、その土地の食材に合わせて同郷のナチュラルワインを提案する…なんてことが、華やかなホテルの世界で今後さらに浸透していくかもしれない。そんな展開が、今から楽しみだ。

〈The Blue Room〉

深く発色するクライン・ブルーのソファが象徴的な、〈東京エディション虎ノ門〉のレストラン。

住所:東京都港区虎ノ門4-1-1 東京エディション虎ノ門31F | 地図
TEL:03-5422-1600
営:7時~11時(10時30分LO)、12時~16時(14時30分LO、土日祝~ブランチ15時LO)、17時30分~22時30分(〜21時LO)。
休:無休
82席、個室1室(10名まで)。
HP:https://theblueroom.toranomonedition.com

虎ノ門 〈The Blue Room〉

〈東京エディション虎ノ門〉

2020年10月オープン。イアン・シュレーガーが手がけるラグジュアリーライフスタイルホテル〈エディション〉ブランドの日本初進出にして世界11軒目のホテル。虎ノ門の高層複合施設・東京ワールドゲート内「神谷町トラストタワー」31~36階に位置し、内装デザイン隈研悟が担当。全206室。In:15:00 out:12:00。〈東京エディション銀座〉が2022年内にオープン予定。