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南部の「正しい男」です。『Do Right Man』ダン・ペン。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.24

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Do Right Man』Dan Penn(1994)

ダン・ペンは南部の
「正しい男」です。

夏をテーマにするのであれば、アメリカ南部の高温多湿な感じの曲が1枚欲しいと思い、今回はメンフィスからダン・ペンを選びました。彼ももしかすると、ボビー・チャールズと同様、アメリカより日本での方が知名度が高いタイプかもしれません。

彼はもともと、1960年代にマスル・ショールズで活動していたミュージシャンですが、当時はソングライターやスタジオ・ミュージシャンとしての仕事が多かった。ただ当時から彼の歌には黒っぽいフィーリングがあって、抜群にうまいです。マスル・ショールズあたりには彼と同じようにブラック・ミュージックの虜になった白人のミュージシャンが集まり、何もないこの小さな田舎町はしばらくの間最高のソウル・ミュージックを大量に放出したのです。

ライヴなど人前に出るときには必ずと言っていいほど、彼はジーンズのオーヴァーオールを着ます。その姿は南部の農家のおっちゃんにしか見えなくても、本人はプライドを持って毅然としています。

彼は70年代に『Nobody's Fool』というソロアルバムを1枚出しますが、ほとんど注目されずに終わりました。それから20年以上経った1994年に出した2作目のアルバムが、この『Do Right Man』です。

このアルバムでは、昔、ダン・ペンがいろいろなミュージシャンのために書いた曲をかなり歌っています。例えば今回選んだ「Do Right Woman, Do Right Man」は、アリーサ・フランクリンがアトランティックに移籍したときに彼女のために書き下ろした曲で、移籍第1弾シングル「I Never Loved A Man (The Way I Love You)」のB面に入っています。この曲はその後もいろいろなミュージシャンにカヴァーされて、ソウルの名曲として有名になりました。

このアルバムにはほかにもジェイムズ・カーが歌った「The Dark End Of The Street」やパーシー・スレッジの「It Tears Me Up」など、ソウルの名曲が並んでいます。ダン・ペンの書く曲は南部の湿度の高いところでなければ生まれない音楽、日本の夏にも間違いなく相性がいいはずです。

Dan Penn

CD-5:「Do Right Woman, Do Right Man」

アリーサ・フランクリンのために書いた曲ですから、女性シンガーがよくカヴァーしていますが、それを男性のダン・ペンが歌うと、また別の味わいがあります。歌詞は時代を反映してか、恋する男に女の立場をわかってほしいと訴える内容。ダン・ペン、いい男です。