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〈DRAKE’S〉クリエイティブディレクター、マイケル・ヒルに聞く“冬のトラッド”

現代のかっこいい大人と話がしたい。世界で活躍する人たちは、今何を見て、どう動いているのか。ロンドンのトラッドスタイルに欠かせないブランド〈DRAKE'S〉の顔、マイケル・ヒル。彼にとっての“冬のトラッド”とは、どんなスタイルなのか。サヴィル・ロウにあるお店を訪ねました。

photo: Kae Homma / text: Ko Ueoka

ニュー・ブリティッシュトラッドの立役者

自由気ままなトラッドに身を包んだロンドンのかっこいい大人たち、その誰しもが愛用している〈DRAKE'S〉。イギリス屈指のタイメーカーとして馴染み深いこのブランドに、伝統を重んじながらもコンテンポラリーな息を吹き込んでいるのが、2010年よりクリエイティブディレクターを務めるマイケル・ヒルだ。

デザインや生地の選定から、リテールプランなどのビジネス面、時にはPRコンテンツの制作まで、あらゆることに携わりながらチームを率いており、まさに〈DRAKE'S〉の顔と言っていい。

「〈DRAKE'S〉にとって、ネクタイはブランドの基盤そのものなんだ」と語るマイケル。1977年に創立した〈DRAKE'S〉は、もともとはスカーフやハンカチーフを専業としていた。ネクタイ分野への参入を試みた創業者マイケル・ドレイクが、名の知れたネクタイ職人であったマイケル・ヒルの父、チャールズ・ヒルと手を組んだのが、1982年。

幼い頃に父に工場に連れられ、ファッションや生地に親しんできたというマイケル・ヒルが服飾の道を選んだのは必然だった。マイケル・ドレイクの右腕として活躍し、2010年にマイケル・ドレイクが引退した後、ブランドを引き継いで現職に就任した。

「サフォークやイタリアのコモなど、長い歴史を持ち、親密な関係を築いてきた工場から生地を仕入れ、ロンドン東部のハバダッシャー・ストリートにある自社工場で、ハンドメイドで丁寧に作っているよ。製品の背景には、誠実な物語があることが重要だ。今ではネクタイは日常的なユニフォームの一部ではなくなってきたけど、決してその地位を失ったわけではなく、より大きなインパクトを与えられる特別なアイテムになったのさ」

決して、発明家である必要はない

2019年にはロンドンの旗艦店をサヴィル・ロウに移転し、アメリカのアーバンプレッピーな気鋭ブランド〈AIMÉ LEON DORE〉とのコラボレーションなど、話題に事欠かない。〈DRAKE'S〉が広く受け入れられるのは、イギリスのにおいは残しつつも、多文化的なスタイルを持っているからだろう。

クラシックな英国製のシャツやシェットランドウール・ニットのほかに、裏地のないリラックスしたスーツはイタリア製で、アイビーなラガーシャツやキャップもある。実は、マイケルが引き継いでからウェアラインを展開し始め、今では頭から爪先まで、そしてドレスアップからドレスダウンまで、あらゆるカテゴリーのアイテムが揃う。

「トラッドスタイルがカジュアルに寄りつつある中、アイビーの着こなしはとても重要だと思う」とマイケルは教えてくれた。〈DRAKE'S〉は2022年に、ニューヨークのカナル・ストリートに店舗をオープンさせている。

「マイケル・ドレイクとともに、ニューヨークの〈バーニーズ〉や〈ポール・スチュワート〉に営業に通っていた時を思い出すよ。当時の〈DRAKE'S〉はアクセサリー専門で、服は作っていなかったから、ニューヨークに着いて初めにすることといえば〈ブルックス ブラザーズ〉でボタンダウンのシャツを半ダース買うことだった。ナポリ製のハンドメイドのスーツに、シャツは〈ブルックス ブラザーズ〉のボタンダウン、ネクタイはもちろん〈DRAKE'S〉。僕らは発明家じゃない。既存のものをいかに組み合わせるか、それが〈DRAKE'S〉のあり方なんだ」

では、マイケル個人にとっての、“冬のトラッド”とは?

「ツイードジャケットやスエットシャツ、ペニーローファーなど、おじいちゃんも着ているようなクラシックなアイテムかな。遡ることのできる歴史があり、ゆっくりと進化させられるものが好きで、気分に合わせてツイストを加えるんだ。例えばネイビーのブレザーだったら、今季は裏地なしのモールスキンで、トラッドな雰囲気を残すためにゴールドのボタンを施したり。冬のキーアイテムは、フェアアイルのジャンパーだね。そのまま着るとやぼったく見えがちだから、どんなスタイリングであれば新鮮に見えるのか、あれこれと考えるのが楽しいんだよ」

〈DRAKE’S〉クリエイティブディレクターのマイケル・ヒル
サヴィル・ロウにあるお店のテーラードコーナーにて、今季のモールスキンのブレザーを着用。近年はインスタグラムを通じてアートを買うことにハマっており、最近購入したTerry Ekasalaの作品を見せてくれた。