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映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』が公開。認知症の妻/母を、尊重し続けるということ

認知症の妻を98歳の夫が懸命に介護する日々を一人娘の信友直子監督が記録したドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』が22年3月25日、全国順次公開される。

Text: Takahiro Maeda

いいことばかりではない人生に、
いいことを見出す。

2018年に劇場公開された『ぼけますから、よろしくお願いします。』のことは今でもよく覚えている。

認知症を患った80代の妻を、90代の夫が介護で支える。夫はそれまで(つまり90年以上!)家事をしたことがなく、高齢なのでスーパーへ買い物に行くのさえ大仕事……という老々介護の現実も見ごたえがあったのだが、もっとも心に刺さったのは、妻が日々無力になっていく自分に嫌気がさし、「もう死にたい!」と泣きわめく場面だった。

映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』
98歳の夫は体力的にかなり衰えているはずなのに、徒歩で片道1時間の妻の入院先へ毎日通う。弱音を吐くどころか、体力増強のため筋トレまで始める夫。思わぬ形で、妻への思いの強さを見た気がした。©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

認知症を患うと、ただ物忘れが激しくなるだけではない。それまで普通にできていた家事もできなくなってしまう。それでいて「世話する立場だったのに、世話されるばかりになった自分が情けない」という人間らしい自尊心は残っている。

「認知症を患っていても、人格を持った一人の人間なのだ」という当たり前の、しかし見落としていた事実を彼女の叫びに見て、ショックを受けたのだった。

その続編が『ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜』だ。前作の振り返りを挟みつつ、前作以降の家族の姿を、娘の信友直子監督が映し出す。

妻の認知症はますます進行し、さらには脳梗塞を発症して入院、もはや言葉を発することさえ困難な状態だ。夫は98歳になったが、それでも妻を支え続ける。そこへコロナ禍が襲いかかる。

はたから見ると限界とも思える状況のなか、夫も、そして娘の信友監督も、常に妻/母を「一人の人間」として扱い、意思疎通を図り続ける。ある場面で、その意思疎通が見事に実を結ぶ。それまでは表情にあまり変化のなかった妻が、その場面では感情をあらわにして声を上げるのだ。

「どれだけ認知症が進行しても、相手は感情を持った一人の人間であることを忘れてはならない」と、前作に引き続いて教えられた気がした。

認知症を患うこと、介護することの現実だけでなく、そのことが持つ「可能性」まで見せてくれるドキュメンタリーだ。