ロンドンと東京で活動するDJ2人。近年はジャズをプレーする機会が増えているという。その理由とは?
タニヤ・ハシモト
渋谷の〈Tangle〉で働いていた20歳の時。ユセフ・カマール『Black Focus』(2016年)やエズラ・コレクティヴなどの新しいものや、古いジャズがかかっていたんだ。当時はダンスミュージックばかりで、詳しく知らない音楽だったけど、集中して聴いてみると、リズムが流れるように展開していくグルーヴ感と、即興演奏の自由さに引き込まれていった。
クロエ・ジュリエット
ほかのポップミュージックには、あり得ない表現だよね。私も22歳の時、留学のために来日して、新宿のゴールデン街の歌謡曲バーでバイトしていたんだけど、お客さんに中原昌也さんがいらして、神宮前〈bonobo〉へ連れていってもらった。週末はダンスミュージックだけど、平日はフリージャズや民族音楽もかかっていて。
タニヤ
ヤバい雰囲気だね(笑)。
クロエ
ジョン・ケージなどのコンテンポラリーやアンビエントを聴いていたから、“こういう音楽をかけるクラブもあるのか”と思っていたら、〈bonobo〉の成浩一さんから誘ってもらってDJを始めたんだ。
交配を続けながら進化するロンドンの新しいジャズ
クロエ
今はロンドンに住んでいるんだよね、調子はどう?
タニヤ
毎日楽しいよ(笑)。そもそもヌバイア・ガルシアやシャバカ・ハッチングスも使っているスタジオ兼宿泊施設の〈Total Refreshment Centre〉や、運営しているレックスさんが主催する教会を会場にしたセッション『Church of Sound』が気になりすぎて、思い切って渡英したんだけど。
クロエ
日本ではお寺を会場に『Temple of Sound』をやっていたね。
タニヤ
そうそう。イベントやレコード販売、コンピレーション制作の手伝いをしながら、DJをやっていて。周りにミュージシャンが多く、一緒に遊んでいると“メロディを思いついた!”とか、突然セッションが始まったり。
ロンドンのサウス&イーストエリアを中心に、いろいろな国の人や文化が交差して、アフリカやアラブ、アジアなどのバックグラウンドを持つ人がバンドに入ったり。アバンギャルドな要素もあったりして、もはやジャズでくくるのは難しいくらい。
クロエ
結構好みかも。レコードショップはどうなの?
タニヤ
いいお店はいっぱいある。僕と同世代の若いコレクターもたくさんいて、ただ、レコード自体は日本より少し高いイメージ。
クロエ
確かに、今は円が弱いから海外では買い物がしづらい。私は友達がやっている下北沢〈pianola records〉が一番いいかな。ジャズはアバンギャルドなものばかりだけど。
タニヤ
バイヤーさんの友達がいると、新作のリリース情報も教えてくれたりしていいよね。
クロエ
ジャズは、ジャケットやクレジットを見ながらチェックしたい。テクノやハウスは「Discogs」の情報だけでいいけど、ジャズは実物を見ながら参加メンバーを確認すると発見がある。推しの音楽家がいたら“このレコードでも弾いているのか”とかね。
DJの最中、同じミュージシャンが参加するレコードでつなぐこともある。自己流だけど、そういうかけ方ができるのがジャズならではの面白さ。伝わる人には伝わる感じというか。そうやってレコードを探していると、お店の人が教えてくれたりして。
ヨーロッパでも人気急騰、過去の日本人によるジャズ
タニヤ
そういう場は必要だよね。ロンドンでは、日本のジャズ喫茶インスパイアの店が増えてきている。キングスランドの〈Brilliant Corners〉はもう有名だけど、近くにできた〈MU〉も流行ってる。
クロエ
私はリスニングスタイルのDJも増えてきた。レストランやバーはお酒とご飯を楽しむ場所だから、フリージャズとかかけられない。
タニヤ
何をかけるの?
クロエ
スピリチュアルジャズの温かい雰囲気とかがピッタリ。
タニヤ
ロンドンで日本のジャズについて調べていたら〈Three Blind Mice〉というレーベルの作品に辿り着いた。ビバップがメインなんだけど、スピリチュアルな風味もあって、いいんだ。
クロエ
ヨーロッパでも、日本のジャズは人気だよね。オリジナル盤は高いから、まずはリイシューで聴いてみようかな。
DJとジャズの歴史を3枚で遡る
1980年代後半、UKのクラブでジャイルス・ピーターソンらのDJがジャズをプレー。NYでもア・トライブ・コールド・クエストらがジャズをサンプリングし、トレンドを築いた。世界中のトラックメーカーらが注目し、ジャズサンプルの楽曲が数多く生まれた。
2000年前後にいったんブームは収束するが、DJがサンプリングや再演奏で制作した楽曲は、NYの新世代ジャズミュージシャン、LAやUKのトラックメーカーたちへ、脈々と受け継がれている。