Learn

川上典李子が解説。明日がわかる「デザイン」の最新時事用語事典

ステップアップを成し遂げるためには、スキルを身につけることと同じように、新しい知識を手に入れることも大切。そこで、デザインジャーナリスト・川上典李子さんに、ちょっと先の未来を見据えた「デザイン」における最新キーワードを解説してもらいました。新たな学びは、新たな言葉を知ることから。リスキリングの武器となる、最新時事用語集です。

illustration: Kei Hagiwara / text: Ikuko Hyodo, Miki Hayashi, Madoka Hattori / edit: Ichico Enomoto

連載一覧へ

気候変動や環境問題、テクノロジーなど、社会と密接に関わるデザインは多様な面からのアプローチが必要とされる。

マテリアル・リシンキング

化学的な素材だけでなく、自然界にある素材でものを生み出すなど、素材そのものを考え直す動きは今後も続くだろう。21_21 DESIGN SIGHTでは企画展『Material, or 』を開催していたが、同時にニューヨークMoMAでも『Life Cycles:The Materials of Contemporary Design』が開催されていたのはもはや偶然ではなく必然だろう。

レジェンドの遺産

内田繁とのタッグのもとアルド・ロッシが建築を手がけ錚々たるデザイナーが結集して1989年に開業した日本のデザインホテルの先駆け〈ホテル イル・パラッツォ〉のリデザインプロジェクトや、2023年11月から世田谷美術館で開催されていた『倉俣史朗のデザイン』展など、レジェンドの遺産に光が当たっている。その功績を再評価し、未来に受け継ぐ動きが各所で見られる。

ネイバーフッド・ネットワーク

持続可能性の観点から、その土地にある素材を使い、地元の職人と協働するやり方が重要視されるだろう。田根剛の設計でドイツのヴィトラキャンパスに完成した建築〈Tane Garden House〉はスイスの郷土的な家を調べ、茅(かや)やロープなども生かされた。

ローカルよりももっと近い距離で、人との関わりも大切にする「ネイバーフッド」という視点は今後のヒントになる。

田根剛の設計でドイツのヴィトラキャンパスに完成した建築〈Tane Garden House〉
石油などの地下資源ではなく「オーバーグラウンド」(地上)の活用もコンセプト。Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

エヴォーキング・オブジェクト

デザイナーが自らの考えを自発的に提案し、人々の思考を喚起(evoke)していくもの。TAKT PROJECT代表の吉泉聡が提唱。クライアントからの依頼を集約させるプロトタイプとは対照的に、さまざまな可能性が広がる提案でもあり、そこに対話が生まれると、これまでの商業主義とは違うデザインの姿が見えてくる。

企画展『Material, or 』のエヴォーキング・オブジェクト
企画展『Material, or 』にもエヴォーキング・オブジェクトが。撮影:木奥恵三
※企画展『Material, or 』は2023年11月5日までの開催で、現在は終了しています。

コンヴィヴィアル・テクノロジー

「コンヴィヴィアル」とは、共に生きるという意味。デザインエンジニア緒方壽人は、著書『コンヴィヴィアル・テクノロジー』で、思想家イヴァン・イリイチが提示した概念を出発点に、人間とテクノロジーのあり方を探る。

今後もテクノロジーが進化する未来において、行きすぎたテクノロジーが人間にとってちょうどいい道具となるような、共生の視点が重要かつ不可欠。

連載一覧へ