教えてくれた人:マッキー牧元(タベアルキスト、食ジャーナリスト)
好きな人に対するがごとく
店にアプローチ
店の常連になる。顔馴染みの酒場を持つ。本来は何度も通い詰めてようやく辿り着く“行きつけ”の喜びを、少々ショートカットして手に入れたい。
「でしたら、目当ての店に3日続けて通ってはいかがでしょう」。
そう答えてくれたのは、年間外食数600超えの食ジャーナリスト、マッキー牧元さん。
「好きな人にアプローチするのと同じで、私はこの店と真剣に付き合いたいのだと伝えるその態度は、たとえ愚直でも相手に響くと僕は思います」
行きつけをはじめる店としてのおすすめは、カウンターで静かに一人飲みできる居酒屋。
「行きつけとは、家や仕事場での役割を忘れて自分自身の余裕を取り戻す場所。そして、大人の遊び方や気遣いを学ぶ場所でもある。できれば老紳士も通うような老舗を選び、先輩方の振る舞いをそっと観察するところからはじめたいものです」
大切なのは、店への敬意を行動で示すこと。予約可能な店なら電話をするのがマッキー流だ。まずはきちんと名乗り、言葉遣いは丁寧に。ネット予約も増えた昨今だが、電話予約は、私はこういう者ですとプレゼンし印象づける好機でもある。
「酒の肴に頼みたいのは、店の技量が表れる野菜料理。また、品書きの中にひときわ目を引く名前の料理があれば、“これを食べてほしい”というメッセージでしょう。それらをしみじみ味わえる人は、店にとって愛すべき客。常連への早道です」
酒はペースを崩さずに飲む。注文はタイミングと頼み方を脳内で予行演習し、「お手すきで」と一言添えて声をかけるのが店にも周囲にも好印象。
「酒器を粋に持てる客も印象に残ります。格好のいい仕草を家の鏡で確認しておきましょう」
無事常連になれた後も、店とのよき距離は保ち続けるべし。
「今日お邪魔した〈シンスケ〉さんは、それを“銭湯の距離感”とおっしゃいます。気軽に立ち寄れる社交場ではあるけれど、店にも周りの方にも踏み込みすぎず馴れ合わない。行きつけの心地よさを守る鉄則です」
行きつけを作るための10ヵ条
1:これと決めた店に3日続けて通う。
2:基本はカウンターで一人飲み。
3:毎回同じ時間に訪ね、印象づけるのも手。
4:丁寧な言葉遣いで電話予約をし、時間を守る。
5:資金は多めに持ち、気持ちの余裕を。
6:「野菜料理」「この店だけの一品」を選ぶ。
7:「お手すきで」を自然に言える良い客であれ。
8:酒器の持ち方や飲む時の姿勢を、鏡前で練習。
9:割り箸袋やおてふきの空袋もきちんと始末。
10:店とも周囲の客とも、よき距離感を保つべし。