『土竜の唄』高橋のぼる/著
推薦者:ブルボン小林
現実逃避のつもりが、どんどん元気になるだろう。
潜入捜査官レイジの捕り物は、日常から逸脱しており困難の連続だが、常に笑いとスリルに満ちている。筋運びの無茶苦茶さが何十巻も維持され続けていることに驚く。主人公達にというよりも作者に対して「突然、なにを言い出すんだ」と気が抜けない。
最近も田村正和そっくりのシェフ村田が登場しているが、単に田村正和を描きたかっただけとしか思えない(なぜ今!)。自由すぎる筆致に毎回脱帽。オットセイ料理のフルコースを振る舞われ無駄に精力を高められレイジ、どうなる?という、みたことない「次号へのヒキ」の連発もすごい。
絵もカロリーが(無駄に)高く読み進めるほどに、現実逃避してるつもりがどんどん元気になっているだろう。
『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす』硬梨菜/原作 不二涼介/著
推薦者:近西良昌
あるあるの宝庫?ゲームの世界に入り込もう。
全くの異世界を舞台にしたマンガは現実離れしていて、かえって現実逃避しづらいこともあるかもしれません。しかしこの作品は、主人公がオンラインゲームの世界に入り込んで冒険をするという物語。
ゲームをする人は、その感覚を味わいながら、同調できるリアルな設定になっています。なぜ作品が「クソゲー」と呼ばれてしまうのか、「神ゲー」と呼ばれるに値する要素はなんなのか、ゲームのクオリティに関する描写が丁寧に描かれています。
また「この場面は周りの力を使わずに自分の力で乗り越えたい」というゲーマーの心理など、共感必至のあるあるの宝庫。主人公がダンジョンに入っていく姿に自分を重ね、つい現実を忘れてしまうほどのめり込めると思います。
『ヤコとポコ』水沢悦子/著
推薦者:トミヤマユキコ
ゆっくり時間の流れるSFワールドにトリップ。
コロナ禍に読むべきマンガとして、一番推したい作品です。文明が高度に発達した近未来を舞台にしているんですが、価値観的には私たちの過去とどこか似ています。
会社にはパソコンが1台しかないし、車の移動もゆっくり。スマホすらない世界です。主人公のヤコはマンガ家で、動物型のロボットアシスタントであるポコと一緒に仕事をしていますが、ポコもやはり効率とは縁遠い存在。よく読むと、現代文明や私たちの効率化されすぎた生活に対する痛烈な批評になっているとわかりますが、そこは気にせずゆる〜い時間の中にのんびり身を委ねてもOK。
コロナでスローダウンを余儀なくされた人類に、そんなに焦らなくても大丈夫だよと教えてくれる優しい作品です。
『さめない街の喫茶店』はしゃ/著
推薦者:SYO
おいしいコーヒーとスイーツでほっと一息。
まさにこの気持ちに支配されていた時、素敵な題名とかわいらしい絵柄に惹かれて読み始めました。したらばドンピシャな作品だったのです!不思議な街の喫茶店で働くスズメ。彼女は店を訪れるお客さんや穏やかな店長のために、スコーンやドーナツ、ホットチョコレートなど、おいしいメニューを振る舞うのでした。
ただ、彼女がこの街に来たのにはある切ない理由があって。読むとほっと休まる、優しさがぎゅっと詰まった作品でありながら、その根底には現実の残酷さがちゃんとある。
逃避の先には帰還があるということ。いったん立ち止まって自分を見つめ直し、再び立ち向かうための栄養をくれる、まさに心の喫茶店のような傑作です。あと、読むとお腹が空きます。