北九州市を舞台にした映画『逃げきれた夢』が公開
でんでん
『逃げきれた夢』は2回観たよ。2回観るとさらにいいね。劇中に出てきた三角公園は、同級生の親父が昔八百屋をやっていたのよ。
光石研
観てくださって、ありがとうございます。でんでんさんは水巻町ご出身で、僕は黒崎。昔は同じ遠賀郡だったんですよね。
でんでん
映画の冒頭、研ちゃんが介護施設に入ってくるところから、出ていくまでをワンカットで撮っていて「これは面白いぞ」と期待が高まった。長いシーンを役者一人のお芝居でもたせている場面が多くて、キャメラを向けられた時の緊張や心の動き、目の動きを見るだけでも楽しいの。居間で家族に告白する場面も、喫茶店で元生徒と対峙する場面もすごくよかったよ。じゃ、お疲れ様でした(帰ろうとするふり)。
光石
いや、早すぎますって(笑)。九州弁はどうでした?
でんでん
あの「送らっしゃり」って、言葉はいいね。
光石
「送らせてもらえませんか」みたいなニュアンスですね。
でんでん
「送っちゃー(送るよ)」ではなく、筑豊は控えめに言うのね。
光石
「北九州弁」とひとくくりに言われますけど、厳密に言うと僕らの言葉と、小倉や門司の言葉は微妙に違いますし、博多とちょっと合わせたような言葉なんですよね。
でんでん
博多は語尾に「くさ」をつけるけれど、僕らは「ばい」。あと小さく「ち」が最後につくのね。つけている意識はないんだけど、「そうだっち」「行くっち」とか。
光石
でんでんさんは、九州弁でのお芝居はやりやすいですか?
でんでん
いやあ、この間も福岡のラジオドラマに出たんだけど、予習を兼ねて、いとこ相手にセリフを言ったら、だいぶ違うたいと言われて、何時間も方言指導してもらった。
光石
僕らも上京してだいぶ経ちますし、口馴染みがなくなっているというのはあるかもしれませんね。でも、どの地方でも、標準語のセリフよりも方言の方が、僕は気持ちをのせやすい気がします。
でんでん
そうね。方言で話した方が土の香りがするからね。
光石
「土の香り」っていい言葉ですね。でんでんさんは、福岡での仕事はうれしいですか?
でんでん
やっぱり、うれしいよね。
光石
僕も高揚するんです。福岡の仕事は必ず前乗り(前泊)します。1時間で終わるナレーションの仕事でも(笑)。おいしいもの食べなきゃいけないからって。
でんでん
僕はラジオドラマの時は前2泊したよ(笑)。ふるさと納税じゃないけどさ、故郷のために何か力になれているというのがうれしいのかもしれないね。
なんでもない役は難しい
光石
今回の映画は生まれ育った町で撮影したので、気恥ずかしかったですね。親の前で芝居したりして。父親役は僕の本当の父なんです。
でんでん
どなたかと思ったら、研ちゃんの親父さんなの⁉そりゃ照れくさいやろ。でも、今回の研ちゃんのお芝居はお見事と思った。なんでもない男の役が一番難しいよね。
光石
難しいですねえ。
でんでん
僕は「力を入れて力まずに」ということを目標にしているんだけど、今回の研ちゃんを観て、「ああこれだ!」と思ったよ。
光石
でんでんさんのお芝居こそ、まさしくそうじゃないですか。
でんでん
自然体に見せるのが難しいからこそ、ああいう役をやりたいよね。役者って、いろんな人生を経験できるからいいなと思うんだけど、でも、恥ずかしくなることもない?刑事や弁護士、殺される役も「お前の想像力はその程度か」と言われているようで恥ずかしいの。
光石
わかります。いろんな役をやれるのは楽しいけれど、恥ずかしさもありますよね。その気持ちをかき消すために、ふざけてしまうところがあります。僕は『お笑いスター誕生!』の頃から、でんでんさんのファンだったので、20代後半で2時間ドラマで初共演できた時はすごくうれしかったです。北九州は気の荒いイメージがあるかもしれないけれど、でんでんさんの怒ったところは、見たことがないです。
でんでん
研ちゃんも優しい。港や炭鉱があったから、荒いところもあるけど情の深い優しい人が多いよね。
光石
九州もので、がっつりお芝居をご一緒したいですね。
でんでん
いいホン屋さん(脚本家)にお願いしてね。やりたいね!