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アジア縦断、乗り鉄妄想旅のススメ。中国〜ラオス〜シンガポール

渡航制限があってもなくても、私たちはいつだって旅立てる。そう、頭の中で自由に!理想の旅の実現を夢見て、中国からシンガポールまでを、列車だけを乗り継いで縦断するプランを考えてみた。

 

Photo&Text: Tabioto

ラオスで見つけた妄想旅のタネ

2021年12月3日、あるニュースを目にして、「ついに……!」と静かに興奮した。東南アジア唯一の内陸国、ラオスの首都ビエンチャンと、中国・雲南省にある人気観光都市、昆明を結ぶ国際高速鉄道が、ようやく全線開通を果たしたのだ。

新型車両「ランサーン号」

ラオスは国土の約7割が森林地帯ということもあるのか、交通インフラの整備があまり進んでいなかった。国内での移動はもっぱらバスを頼ることになるのだが、山がちな地形ゆえにきついカーブやアップダウンの激しい道路も多い。ときどき出現する未舗装区間もくせものだ。さらに厄介なのが、外務省の海外安全ホームページに掲載されている「山賊による襲撃事件」の一文。これまで出会ったラオス人は、皆やさしくて穏やかだったけれど……。

2度目のラオス訪問となった2020年1月。タイ北部から入国してスローボートに乗り込み、2日間かけてメコン川を下って古都ルアンパバーンへ向かうなか、船頭が橋脚らしきものを指差して「あれは中国が造っている鉄道だ」と言った。鉄道でラオスからタイだけでなく、中国にも行けるようになるんだ……。

乗車時間はたったの10分でも
最も深く心に残った鉄道の旅

ラオス国内の町をいくつか回って1週間が経ち、私たちは国境近くにあるターナレーン駅にいた。1日2往復のみ運行しているラオス唯一の鉄道で、ふたたびタイに向かう。陸路での国境越えにやけにロマンを感じるのは、島国育ちの性(さが)だろうか。

出国手続きを済ませたら、列車が入線するのを待つ。ホームにいる人の姿はまばらだ。それは、この駅がビエンチャンからだいぶ離れた位置にあることと、営業距離わずか5.2kmの鉄道より本数が多くて便利なバスのほうが圧倒的に楽だから、だろう。

新型車両ランサーン号と車掌

17時30分。車掌が緑の旗を振ると、列車はゆっくりと動き出した。その後もほとんどスピードを上げることなく、のんびり走行する。メコン川に架かる橋を渡るときに、思わず息を呑んだ。車窓の外には、今まさに沈もうとしている真っ赤な夕日。当時10歳だった息子も、「わあ……!」と釘付けになっていた。

ランサーン号からの夕日

いつか “乗り鉄”する日に備えて
架空の旅程を組んでみる

さて、ラオスに本格的な線路が敷設されたことで、中国を起点に、ラオス、タイ、マレーシア、シンガポールを鉄道のみ利用して旅をする未来が見えてきた。2歳の頃から鉄道ファンの息子を持つ我が家にとって、これは相当アガるトピックだ。とはいえ、今すぐに乗車することは叶わない。だからこそ、妄想の出番。

まずは空路で中国・上海へ。となると、やっぱり乗りたいリニアモーターカー。ふわっと浮き上がる浮遊感を味わいながら大地を駆け抜けたい。現在は時速300km走行だが、将来的にはその倍となる時速600kmを目指すというから楽しみだ。

翌日は昆明まで移動。ここから東南アジア縦断“乗り鉄”旅が始まる。沿線の気になるスポットで途中下車しながら南下しよう。まずはタイ人、ラオス人のルーツであるタイ族の自治州、シーサンパンナに寄り道。タイ式寺院、熱帯植物、中国らしさとの融合。国境が近い町ならではの雰囲気を楽しみたい。

古都ルアンパバーンの托鉢の行列

ラオスに入国したら、目指すは古都ルアンパバーン。早朝、托鉢の行列を見学するのはマストだ。そして、夕暮れ時から始まるナイトマーケットに繰り出して、モン族の女性が刺繍を施した布製品をたくさん買うのだ。

アウトドアアクティビティが充実しているラオス中部の田舎町、バンビエンも素通りするわけにはいかない。タイヤに乗って川下りするチュービングやカヤッキングで体を動かすのもいいけれど、気球でのんびり空中散歩するのもいいなあ。

ラオス中部の田舎町

ラオスを満喫したあとは、タイ国境の町、ノーンカーイから寝台列車に揺られて一路バンコクへ。ここでも新たな時代の幕開けを感じさせる出来事が起こりそうだ。100余年ものあいだ親しまれてきたバンコク中央駅(通称フアランポーン駅)が、長距離列車の発着地としての役目を終え、北へ約10kmのバンスー中央駅に引き継がれるかもしれないのだ。本当なら2021年12月には移転するはずだったが、利用継続を求める声が上がり、政府が再検討に入ったとか。このままフアランポーン駅を利用したい気持ちと、複合施設に生まれ変わる計画を見届けたい気持ちがせめぎ合っているが、さて、実際にはどうなるのか。ひとまず、妄想上ではピカピカの新駅で途中下車しておこうか。

バンコク中央駅

定番のマレー鉄道で、好きなところに立ち寄りながらマレー半島をどんどん南下していこう。プラナカン文化が色濃く残るペナン島や、クアラルンプールを楽しむのもいいだろう。国境の町ジョホールバルからシンガポールは、現在運休中のシャトル・テブラウに変わり、2026年末に開業予定の国境鉄道RTS Linkが控えている。

旅に出られなくて悶々とする日々が続くが、近い未来には大いなる楽しみが控えていると思うことにしよう。さあ、シンガポールに着いたら本場の海南鶏飯を食べて、これにて妄想縦断旅、完了!