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沁みる映画案内101 Vol.9『わが谷は緑なりき』『巨人と玩具』etc.

人生の一本が人それぞれであるように、映画で沁みるポイントもまたしかり。あなたはどんな“沁みる”がツボですか?ジャンル不問の101本を沁みるポイントに特に注目してご紹介します。そのためネタバレ注意、ご容赦ください。観た後どう沁みるか、ハッシュタグ付きのキーワードもご参考に。

text: Keisuke Kagiwada,Yuriko Todoroki / edit: Shunsuke Kamigaito / special thanks: Satoshi Furuya

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人生が刻まれた故郷の景色が沁みる

行ったことがないにもかかわらず、景色が沁みる。映画の不思議だ。登場人物の人生の悲喜こもごもが染み込んでいるからだろうか。観ている方もいつの間にか自分の故郷に思いを馳せてしまって、映画どころではなくなってしまうことも。

『リバー・ランズ・スルー・イット』

故郷を離れる兄、残る弟。家族の人生が染み込んだモンタナの大自然

モンタナ州の田舎町で、牧師の父からフライフィッシングを教わった兄ノーマンと弟ポール。ブラックフット川の美しさを故郷とする彼らは、人生の岐路でいつもフライフィッシングに出かけるのだった。就職が決まり故郷を出るノーマンに、弟ポールは言う。「俺はモンタナを離れないよ」

#味わい深い

『わが谷は緑なりき』

誰にも心当たりのある、故郷の景色と人生の追憶

19世紀、モーガン家が貧しいながらも平和に暮らしている英・ウェールズの炭鉱町。山の上の炭鉱が見通せる自宅の前で、いつも母が帰りを出迎えてくれた。家族たちの結婚、就学、悲恋、事故死といったさまざまな出来事を経て、残された末っ子ヒューは、かつて幸せだった故郷に思いを馳せていたのだった。

#味わい深い

過去の自分に別れを告げる挨拶が沁みる

人が新しい人生を歩み始める時、これまで自分が生きてきた社会やコミュニティ、人間関係に別れを告げることになる。それは時に丁寧なお辞儀や会釈という形で表現される。決意はしたけれど、思い出はある、そんな複雑な心情。

『Wの悲劇』

偽ることをやめた新人の、本当の女優としての初めてのお辞儀

劇団の新人である静香は、看板女優の不倫騒動の身代わりの対価として主役に抜擢されるが、事の真相はすぐに公となって劇団を追われる。そうして、自分の人生を生きなければ役を演じられないと知った静香は、“女優に憧れるだけのバカ”だった頃を支えた恋人との関係にも終焉のお辞儀をし、本当の女優への道に進んでいく。

#味わい深い #考えさせられる

『トゥルーマン・ショー』

新たな世界を知り、躊躇(ちゅうちょ)なく今に別れを告げて一歩踏み出す

ある島で平凡な毎日を送るトゥルーマン。彼の生きる世界はテレビのリアリティショーのために作られた偽物だった。死んだ父を見かけて以来、疑問を抱いたトゥルーマンは、大荒れの海を船で渡り外の世界へ出るために奮闘。ついに出口を見つけた彼は、騙されていたことに怒るでもなく、清々しい表情で視聴者に挨拶をする。

#アツくなる #考えさせられる

競争社会でしのぎを削る人々が沁みる

「面白い」と軽々しく言ったら不謹慎かもしれないが、日本の高度経済成長期にあたる時代の“企業ものの映画”は滅法面白い。なぜなら、非情と無常の世界が待っているからだ。そして、そこで繰り広げられる熾烈な人間模様もまた。

『その場所に女ありて』

「バリキャリ」を貫こうとするヒロインの、複雑な心情の劇

舞台は1960年代初頭。銀座の広告代理店の営業社員・律子はライバル会社との受注争いに挑んでいた。手強い相手・坂井と渡り合う過程で、お互いに好意を持つようになるのだが……。現在よりもひどい“男社会”で傷つきながら「バリキャリ」を貫くヒロインの、坂井への最後の対応にはクールさ以上の複雑な心情が読み取れる。

#味わい深い #考えさせられる

『巨人と玩具』

“巨人”に翻弄される登場人物たち。シニカルだが胸熱なドラマ

競合会社が三つ巴のさなか、一般人の島京子はスカウトされ、サムソン製菓のマスコットキャラクターに。彼女の売り出しに躍起になるのは宣伝課の新人・西洋介。時代背景は1950年代末、米国発のマーケティングとプロモーションが日本にも定着し、資本の論理に翻弄される京子と西、シニカルだがおのおのの選択が胸熱な作品。

#考えさせられる #アツくなる

人の性(さが)のどうしようもなさが沁みる

どうやら人間は本能が壊れた動物らしい。自然界の摂理に背いて我欲を追求、その欲動に歯止めはなく、「わかっちゃいるけどやめられねぇ」と、ついつい暴走してしまうのだが、そんなヤカラこそを映画がひときわ好むのもまた真実なのである。

『異常性愛記録 ハレンチ』

壊れた“からくり人形”の悲しみ、人間存在の不可解さ

可憐だが優柔不断な女性・典子に粘着するのはストーカー男の深畑。奇ッ怪なエロキューションで「愛してるんだよ〜ん」と連発し迫る一挙手一投足はさながらからくり人形だ。到底それを愛とは呼べないものの、完璧に壊れたからくり人形ぶりは一抹の悲しみとともに、人間存在の不可解さを教えてくれるだろう。

#不思議な気持ち #アツくなる

『競輪上人行状記』

神や仏の教えも大バクチ、いや、人生自体がギャンブルなのだ

真面目な僧侶がふと手を出した競輪でビギナーズラック。どハマりして、財貨を注ぎ込むもどんどこトコトン堕(お)ちていく……のだけれど、地を這いずり回ってこそ会得できる境地もあり。競輪の予想屋となっての口上は、さながらグルーヴィな辻説法、まさに“競輪上人”となってしぶとくたくましく生きていく姿がグッとくる。

#共感できる #味わい深い

映画『競輪上人行状記』
©日活

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