乗り越えられないという本音が沁みる
悲しみはきっと乗り越えられる。しかし、これまで経験したことのないような深い悲しみは、そう簡単に乗り越えられるものではない。そう教えてくれる映画がある。正直な彼らの、たった一歩のわずかな前進に、心を動かされる。
『恋人たち』
どうしようもなくなってしまった時、心を前に進めるものは何か
通り魔事件で妻を亡くしたアツシは容疑者の訴訟のために奔走していたが、相談していた弁護士に不利だと断られ、心が折れようとしていた。どうしようもなくなった夜、仏壇に向かい涙ながらに無力を詫びる。「さとちゃんがおらんくなってから、何もできんくなってしもうたよ。ごめんなぁ」
#胸が痛い #癒やされる
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
時が経っても、乗り越えられない悲しみがある
米・ボストンで一人で暮らすリーは、兄ジョーの訃報を知り、港町マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってくる。兄の息子パトリックの後見人となったことに戸惑い、元妻のランディと再会する中で、悲しい過去の記憶が蘇る。そして吐露することとなる。「乗り越えられない。つらすぎる」
#胸が痛い #悲しい
なかなか切れない2人の縁が沁みる
映画は、腐れ縁であったり、ワケありであったりの2人を何度も主人公にしてきた。小説もそうだがそれ以上に、この題材とは親和性が高い。切れない縁を“運命”と言い換えてもよく、エモい関係を立体化させるのに適したメディアなのだ。
『いれずみ半太郎』
男と女、心に傷を負う者同士の濃密なラブストーリー
渡世人の半太郎は江戸へと向かう途中、身投げをしようとしていた薄幸の宿場女郎・お仲を救う。足抜けした彼女との逃避行。お仲は病で伏せてしまうのだが指に針を握らせ、介添えして、半太郎は自らの腕にその名前を刻み、“永遠の間柄”を誓う。心に傷を負う者同士の濃密なラブストーリーに思わず目が潤む。
#胸が痛い #味わい深い
『洲崎パラダイス 赤信号』
ズルズルな腐れ縁だが、人間としての艶気(つやけ)に酔わされる
2人が流れ着いたのは東京下町、まだ戦後のにおいがする場末の歓楽街「洲崎」。昔のつてで蔦枝は小さな飲み屋に住み込み、義治も近くの蕎麦屋で働き始める。甲斐性のない男とハスッパな女。離れようとしても離れられない、そんなズルズルな関係だが、好き嫌いを通り越した“紐帯(ちゅうたい)”と人間としての艶気に酔わされる。
#味わい深い #不思議な気持ち
おんぶが沁みる
相手への優しさ、真心が詰まった行為の一つがおんぶだ。なにげなく演出されることが多いため流し観てしまいがちだが、一人の抱える悲しみや障害を、一時的にもう一人が共に引き受けるという気持ちの発露でもある。
『ジョゼと虎と魚たち』
別れの気配を意識した、笑顔のおんぶが切ない
大学生の恒夫は、ひょんなことから足の不自由な少女ジョゼと出会う。付き合い始めた彼女を、実家に連れていこうとする恒夫。しかし、途中で問題が勃発し、ジョゼの障害を支え切れない自分の弱さを突きつけられた彼は、実家行きを断念。別れの気配を感じつつ、恒夫におぶわれ浜辺で波と戯れるジョゼの笑顔が切ない。
#共感できる #悲しい
『ペコロスの母に会いに行く』
母ちゃんがボケたから思い出せた、父の温かさ
ゆういちと、認知症の母みつえ。2人の生活はハラハラしつつも微笑ましいものだったが、みつえは徐々に戦後の若きみつえとしての言動が増えていく。自身を忘れられることに落ち込むゆういちだが、そんな母を前に、彼もまた亡き父親のおんぶの温もりを思い出し、「ボケるのも悪いことばかりじゃないね」と母に語りかけるのだった。
#共感できる #考えさせられる
『岸辺の旅』
幽霊映画であることを忘れてしまうほど優しい時間
自殺して幽霊となった優介は、残された妻を従え、これまで世話になった人を訪ねる旅に出る。1人目に会った老人は、既に死んでいるが、そのことに気づいていないらしい。優介は外で泥酔している彼をおんぶする。そこに流れる時間は、両者が死者であるという不穏な状況を忘れさせるほど穏やかで優しい。
#味わい深い #不思議な気持ち