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東と西、古典と現代の優雅なるメランジェ。橋本麻里がつくる、あしたの“工芸”ベストバイ

BRUTUS1000号「人生最高のお買いもの。」の記念企画で、誰かにとって「人生最高のお買いもの」になるような商品が集まる場所を作りました。その名も「あしたのベストバイマーケット」。ライター、エディターの橋本麻里さんは、江戸の老舗に京の工房、ヨーロッパ宮廷服のモデリスト。エクストリームな助っ人の協力を得て、東洋と西洋、古典と現代をメランジェした、世界のどこにもない、贅沢で美しいプロダクトを製作。

photo: Yoichi Nagano, Makoto Ito / text: Mari Hashimoto / edit: Masae Wako

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もう実店舗つくっちゃう?マニアック商品開発絶好調

こういうテーマとあの技法・素材を組み合わせたら、魅力的なものができるのに。そんな独り言に「なら自分で店を出せば」と言われ続けて幾星霜。やってきたのがこの企画だ。

最初に相談したのは、上野・池之端の一角に店を構える〈有職組紐 道明(ゆうそくくみひも どうみょう)〉。創業は承応元(1652)年と伝わり、現在代表取締役社長を務める道明葵一郎さんで10代目を数える。

組紐は複数条の経糸(たていと)を互いに斜めに交差させて組織を形成するため、伸縮性が高く、断面は立体的になる。仏教伝来とともに大陸から伝わり、平安時代から鎌倉時代にかけて、独自の発展と成熟を遂げた。いま道明が販売するのは、女性用の帯締がほとんどだが、江戸時代には基本的に男性、それも武士の装身具だった。刀の下緒(さげお)も、「勝って兜の緒を締め」るのも、組紐なのだ。

その美しさ、文化財級。「晴れの武装」の紐で装う

そこでお願いしたのが、シューレース。機能性はそもそも高く、外出前の玄関で靴紐を結ぶ時の「いざ」という感覚は、武士の出陣にも通じる。今回は飛鳥時代に伝来した組み方「丸八組(まるやつぐみ)」、正倉院宝物に多く見られる「奈良組」、甲冑(かっちゅう)や刀に用いる「常組(つねぐみ)」を、帯締同様の正絹で組んでもらった。

ホワイトレザーのきれいめスニーカーにも、タフなブーツにも似合い、帯締と同じ「本結び」にすればほどけることもない。金銀糸が入れば、色みは淡くとも存在感がぐっと増す。大人の足下を格上げする切り札になりそうだ。

組紐のシューレース

ショップ名:ARS MAGNA(アルス マグナ)
価格:¥25,600(左)、¥42,400(右)
正絹、各150cm。2本組。左/丸八組。金糸・銀糸に淡い紫色を取り合わせた。右/奈良組。飛鳥時代から奈良時代に伝来、佩飾の紐やペルシャから伝わった箜篌(ハープの一種)の紐に用いた。赤系3色、青系3色。常組もあり。

冠組の帯組紐のシューレース

宮廷服、絹で仕立てる?麻で仕立てる?

次なる構想に巻き込んだのは、「衣服標本家」という風変わりな肩書きを持つ長谷川彰良さん。古いものでは300年前に遡る西洋の衣服を自ら収集して分解。構造や素材を確認して型紙を作り、服として復元するところまでを、『半・分解展』と銘打った展覧会で発表している、野生の研究者にして実践者だ。

中でもその個性ゆえに早い時期から長谷川さんが研究対象とし、展覧会場でもひときわ観客の目を惹きつけていたのが、ロココ全盛の18世紀フランスで男性貴族がまとった「アビ・ア・ラ・フランセーズ」だった。現代の紳士服とは全く異なる立体的な構造が、一目でわかるのは袖。垂直に落ちるのではなく、ダンスでパートナーをホールドする時のように、腕を上げた形状をとる。裾には最大18枚、4m近い布を費やすプリーツが折り畳まれ、着る者の動きに従って華やかに揺れる。

たとえばその生地を、『延喜式』以来の技法で植物染めを手がける、〈染司(そめのつかさ)よしおか〉が染めたら?大航海時代に極東から運ばれた貴重な絹を、異国趣味の貴族がアビに仕立ててお洒落を楽しむ──そんなイメージでつくった最初の1着は、しっとりと控えめに艶めく絹の質感に、胡桃(くるみ)から取り出したグレイッシュなベージュが奥行きを添える、優艶そのもののアビ。2着目は透明感のある麻で、お誂(あつら)え会もやってみたい、と次なる企画が続々進行中だ。

アビ・ア・ラ・フランセーズ(絹・胡桃染)

ショップ名:ARS MAGNA(アルス マグナ)
価格:¥869,000
初号は着丈93.5cm、胸囲100.0cm、袖丈59.5cm。女性Mサイズで中に薄手のセーターを着てぴったり。ウェブショップには今後生地、色、サイズ違い(メンズ)のアビも出品予定。お好み通りに注文できるお誂え会も企画中!

アビ・ア・ラ・フランセーズ(絹・胡桃染)

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