『太陽の下で -真実の北朝鮮-』
北朝鮮の裏をかく、スキャンダラスな隠し撮り。
北朝鮮の一般家庭の暮らしを撮影した本作。だが、ロシアのスタッフは北朝鮮側による徹底的な指導のもとでしか撮影を進められない。そこでは、拍手をするタイミング、笑い声の大きさ、果ては登場する家族の職業まで、北朝鮮が理想とするイメージに合うよう設定済みなのだ。
ロシアの監督らは、定点カメラのスイッチをオンにしたまま隠し撮りをし、フィルムは検閲前に外部に持ち出すことで守った。バレたら終わり……とハラハラさせられる一作。
『FAKE ディレクターズ・カット版』
この居心地の悪さ、今こそ必要かも。
聴覚に障害がある作曲家、佐村河内守にはゴーストライターがいた……と発覚したのは2014年。彼を追った本作は16年公開だけど、古びていないどころか今こそ観るべき映画だ。全編観終わっても真偽が全くわからないから。「嘘言ってない?」と尋ねる森達也監督に「う〜ん」と考え込む彼には怪しさがあるけれど、わかりやすさが溢れる現代だからこそ、この逡巡をしっかり受け止めたい。
『容疑者、ホアキン・フェニックス』
大真面目で壮大なドッキリムービー。
映画『ジョーカー』などで知られる名優ホアキン・フェニックス。実は2008年に俳優を引退していた。本作は復帰するまでの約2年を追う。
ラッパーに転向するもののあまりのへたさに罵声を浴びせられ、長年連れ添ったアシスタントとも仲違い。どれも実話だが、すべてはホアキンと、当時の義理の弟で監督のケイシー・アフレックが仕組んだフェイク。こんなドキュメンタリーがあったとは。
『アクト・オブ・キリング』
出演者、観客ともどもトラウマになる、背筋が凍るような滑稽な芝居。
姉妹編の『ルック・オブ・サイレンス』も話題になった本作。1960年代のインドネシアでは、約100万人の共産主義者が虐殺された。当時の加害者を訪ねた監督が“かつて行った殺人を、もう一度カメラの前で演じてみせてください”と提案する。
俳優ではない彼らの演技こそ稚拙だが、ナイフの持ち方や脅しの手口はリアリティ十分。殺人を再現するなか、本当に怖がる子供たちの反応などから自らの罪を自覚していく様子はスリリングであると同時に、過ちに気づく難しさも痛感させられる。
『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』
約20年間のファミリーヒストリーから、天才を知る。
2020年のグラミー賞で最優秀楽曲賞など主要4部門を最年少で独占した、若き天才ビリー・アイリッシュ。彼女に密着した本作は20年に満たない人生をまるっと映し出す。
家族を“一つの曲みたいなもの”と話すようにその音楽には4人の一家の影響が色濃く、母に歌を、父にピアノを学び、今は兄と共に制作。自分の曲がラジオで流れた!とはしゃぐ無名時代から魅力的だ。Apple TV+で配信中。
『なぜ君は総理大臣になれないのか』
続編も気になってる、今見直しておくべき一本。
官僚出身の政治家、小川淳也が2003年に初めて衆議院選挙に立候補して以来、17年間を追ったこの作品。その続編にあたる新作『香川1区』の公開が、結末がわかっていても楽しみなのは本作を観たから。
一時は家族からも「政治家に向いていない」と言われるほど愚直な小川をまた観られることはもちろん、彼を長年取材してきた大島新監督にしか撮り得ない選挙があるに違いないと思うのだ。