山形の農家民泊〈森の家〉で体験する田舎暮らし

自ら摘んだ山菜を味わい、地元の人と交流する。収穫に喜びを見出し、地域に伝わる暮らしの知恵を身につける。田舎暮らしを体験できる農家民泊、〈森の家〉で自然に彩られた伸びやかな時間を過ごしてみよう。

photo: Tetsuya Ito / text: Ryoko Kuraishi, Keiko Kamijo

野山を歩いて山菜を摘み、
築150年の古民家で
おばあちゃんと交流する

春だもの、芽吹く緑や湿った土の匂いに癒やされたい、新生活でワークライフバランスを手に入れたい。出かけた先は山形県の北部に位置する最上地域、真室川町。旅の目的はこの地の田舎暮らし体験だ。鳥海山、月山、神室連峰と周囲を深い山に囲まれ、豪雪地帯で知られるこの地域には開発の手が入りづらく、昔ながらの生活がいまもそのまま息づく。

この地で代々農業を営む佐藤家の20代目、春樹さんが立ち上げたのが農業・里山体験を提供する農家民宿〈森の家〉である。〈森の家〉で生産しているのは、室町時代から佐藤家が作り続けるサトイモの一種、甚五右ヱ門芋。種芋を一子相伝で受け継いできた、佐藤家の家宝ともいうべき在来野菜だ。

在来野菜とは、自家採種(種採り)などによって世代を超えて受け継がれてきた、その地域固有の野菜のこと。味はもちろん、育て方から調理方法に至るまで、それには土地の物語や歴史が刻まれている。いわば「生きる文化財」のような存在だ。

甚五右ヱ門芋の栽培をきっかけに、地域の文化やここで生き抜くために培われた知恵を継承していきたいと思い至った春樹さんは、農業体験や郷土料理を食す会など様々な体験型プログラムを〈森の家〉で開催。築150年の古民家をリノベーションした佐藤さん夫婦の自宅兼ゲストハウスには、伝統的な食や農業、素朴な田舎暮らしに興味を寄せる人々が全国から訪れる。

折しも2016年4月。甚五右ヱ門芋の植え付けにはまだ早いが、里山は山菜の収穫時期を迎えている。今回は〈森の家〉の春の人気プログラム、山菜採りと地元のおばあちゃんによる山菜料理体験に参加する。

朝、〈森の家〉に集合。軽トレッキングシューズに履き替え、春樹さんのとっておきの山菜スポットへ。さて、今日のお目当てはこの地方で最初に顔を出すフキノトウだ。最上地域の人たちは、雪の下からほんの少し顔を覗かせるフキノトウで春の訪れを知る。次に探すのは全国どこの里山でも見かけられるセリ科のヤマニンジン。香草のような爽やかな香りを放つ葉は、油でさっと炒めるとおいしいのだ。

ちなみにヤマニンジンの若葉を山菜として食すのは、この周辺地域ならではの食文化だ。最後に見つけたのは、薬草として知られるニワトコのつぼみ。ぷっくりと膨らんだ、ブロッコリーの花芽のような姿が目印だ。「柔らかな芽はクセがなくて食べやすいけれど、アクが強いから食べすぎるとお腹をこわす」と春樹さん。

地元のおばあちゃんに習う
田舎暮らしのいろは

山菜を調理するのは真室川町が誇る料理上手のおばあちゃんコンビ、小野美恵子さんと佐藤秀子さん。生まれも育ちも真室川という美恵子さんと、春樹さんの大叔母さんで数十年前にここに嫁いできたという秀子さん、2人はともに地元の文化の語り部。料理をしながら、この地域に伝わる昔ながらの暮らしぶりを教えてくれる。

「田んぼの仕事はお父さんの役目。女たちはもっぱら畑仕事に精を出すんだよ。春は味噌を仕込んで、秋になったら畑の野菜の種を採ったり、保存食を作ったり。冬は、春に備えて自宅で藁仕事。田舎の基本は〝もったいない〟精神だから、野菜の種も田んぼから出る藁も、何一つ無駄にしないんだよ」

最上地域には、甚五右ヱ門芋のほか数種の在来野菜が残っているが、その作り手は秀子さんや美恵子さんのような農業を営むおばあちゃんたち。子供の頃から食べていた野菜を、自ら種を採り、家庭菜園で自家用に栽培してきた。そうした野菜は郷土料理や地元の年中行事と結び付いて、地域の個性として現在に受け継がれている。

この日、秀子さんと美恵子さんが振る舞ってくれたのは、最上地方に伝わる山菜料理と山の幸の数々。「ワサビのふすべ」はワサビの葉をさっと湯がき、辛味を引き出したもの。豆腐やご飯といただく。フキノトウの自家製味噌はそのままおつまみとして。天然のマイタケは油でさっと炒め、柔らかなワラビは浅漬けに。

冷凍のアユは、夏に近くの川で釣れた天然もの。美恵子さんが炭をおこしてあっという間に焼き上げる。秋に収穫した甚五右ヱ門芋は、皮つきのままを軟らかく蒸したら出来上がり。テーブルの主役はもちろん、自ら摘んだ山菜の天ぷらだ。

春は山菜、夏には旬の野菜、秋にはキノコと秘伝の芋煮。自ら収穫した里山の恵みを、郷土のレシピで味わう。野山を歩いて地域の住民と交流し、食や手仕事の良さに触れる。それは想像以上に豊かな経験だ。身近な野生と、失われつつある文化との出会い。田舎暮らしの愉悦はそこにあるのだから。

最上地域の田舎暮らしを
体験できる2スポット

藁細工の小物作りに挑戦。

山形県〈工房ストロー〉工房内
農家に伝わる藁細工のワークショップを開催。所要時間は内容によって30分〜半日程度。

地域の野菜を使った焼きたてパン。

山形県〈げたパン〉店内
最上地域に伝わる野菜を使った惣菜パンが並ぶ。春はヒロコ(アサツキの新芽)のフォカッチャなど。

travel information

電車の場合、東京駅から山形新幹線で新庄駅下車、最速約3時間30分。新庄駅から真室川へは国道13号を経て、車で約40分。車の場合、山形自動車道山形北ICから国道13号を経て約1時間40分。周辺には、月山や葉山を望む温泉宿〈まむろ川温泉 梅里苑〉や〈新真室川温泉関沢荘〉もある。鳥海山の登山口にもほど近く、夏はトレッキングが楽しめる。

田舎暮らしもいいよね…

イラスト 田舎暮らし

民泊でおじぃ、おばぁのお手伝い。
(沖縄県)

沖縄本島からフェリーで30分の伊江島は海水浴やダイビング等レジャーも豊富なうえに、日帰り可という立地のよさで観光客の人気が上昇しているが、それだけじゃもったいない。ぜひ体験したいのが民泊だ。おばぁや母ちゃんが作ってくれる手料理を食べ、おじぃの三線に合わせてカチャーシーを舞う。

そして、大事なのが“ゆいまーる(助け合い)”だ。季節によって、アーサ採り(4月まで)や、島の名物ピーナッツ掘り、パパイヤの収穫等、農業や漁業、酪農の体験ができる。労働後の一杯は格別。いつの間にか帰りたくなくなっているはずだ。

沖縄県・伊江島でのアーサ採りの様子

マタギ学校に入学!山に学ぶ。
(秋田県)

山とともに生きる狩人の集団マタギ。マタギの文化を受け継ぐ集落は東北地方にいくつか存在するが、中でも秋田県の阿仁地方は、特に山深い地域で開発が進まなかったことが幸いし、現在でも色濃くマタギ文化を残す場所だ。

そんなマタギの里にある打当温泉「マタギの湯」で、マタギ学校に入学できる。原生林の山をマタギと一緒に歩きながら、クマと出会った話や代表的な狩猟の方法である「巻狩り」の話、そして山の知恵などを聞くことができる。森の中から、キツネやテン、ムササビ等の小動物がひょっこり顔を出すことがあるかもしれない。

秋田県・阿仁地方の「マタギ語り」の様子
「マタギ語り」(10,000円〜)、屋外を巡るツアーは20.000円〜。学校の後はゆっくりと温泉に浸かろう。

ひそかに話題沸騰中の投網にチャレンジ。
(千葉県)

船上や岸辺から川や海に網を打ち、魚を捕る投網漁。釣り鐘状の網の裾に重りが付けられており、沈下した時に袋状になって、中に入った魚を捕らえるのだ。捕る魚のサイズによって網の大きさが異なるが、総重量は約5〜6kg。ハンマー投げの要領で網を抱えてパーッと美しく放つ、ことができればよいのだが、それがなかなか難しい。

南房総では投網漁をする漁師も多く、投網に魅せられた男たちが同好会を開き公園で練習する姿も見受けられる。熟練の漁師による投網姿は、男も惚れるカッコよさ。さらに魚も捕れるのだから、やってみない手はない。

千葉県〈ログキャビンナチュレ〉投網漁の様子
自然との共生がテーマのログキャビン近くの川では、指導者付きの投網漁(大人500円)やツリークライミングも楽しめる。