解説者:〈BARBER BOYS〉の理容師、島田裕生さん
映画の中のエグゼクティブに、清潔感のあるヘアスタイルを見る
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
世界中で通用する、正しい七三分け
1989年、投資家相手にペニー株を騙し売る株式仲介会社〈ストラットン・オークモント〉を創業した実在の人物、ジョーダン・ベルフォートの伝記映画。
そんなジョーダンを演じるレオナルド・ディカプリオの髪形について「この位置が正しい七三分け。プレジデンシャルカットやサイドパートと呼ばれ、まさにエグゼクティブ。また、これはほかの登場人物にも当てはまりますが、もみあげは短く、サイドも耳にかかってない。襟足はYシャツを着た際に首筋が見える短さに整えている。世界中どこに行っても清潔に思われる髪形です」と島田さん。

『天使のくれた時間』
薄くなっても前髪は上げる
13年前、「仕事を取るか?恋愛を取るか?」の二者択一を迫られ、前者を選んだジャックは現在、大手投資会社の社長として成功を収めている。そんな彼が後者を選んでいた場合の“あり得たかもしれない人生”を追体験することになる物語。ジャックはニコラス・ケイジが演じている。
「彼は生え際が後退しているのですが、エグゼクティブらしくきっちりオールバックにしている点が潔い。髪が薄いとそれを隠そうと色々試行錯誤してしまいますが、それがむしろ清潔な印象を遠ざけることがある。これくらいの方が好感が持てる気がします」

『プリティ・ウーマン』
白い髪は無理に染めなくてよい
実業家のエドワードと出張先で知り合った娼婦のヴィヴィアンが、次第に惹かれ合う姿を描く王道ラブコメディ。エドワードもまたおでこを見せているが、島田さんが注目するのは髪色。
「日本だとビジネスシーンにおいて“白髪染めするのがTPO”みたいな文化がまだ根強い。もちろん黒髪もいいし、清潔に見えるのですが、顔や体や洋服のアップデートとともに髪も年を取るもの。日本では難しいのかもしれませんが、エドワードのように自然な白髪であることを恐れない心の余裕が、清潔感のある大人の魅力につながることもあるんじゃないでしょうか」

『マッチポイント』
スタイリングなしでも清潔
元プロテニスプレーヤーのクリスは、高級テニス教室のコーチになり、上流階級の令嬢と結婚する。さらに義父の会社にも就職し、社会的地位を手に入れるが……。
「なんてことないクルーカットですが、ほとんどスタイリングなしで清潔感が保てるので、ビジネスシーンにもってこい。オンのときはさりげなくおでこを見せ、オフは前髪を下ろせば、仕事とプライベートを分けることもできます。髪が寝やすい方ならば、全体を4cmくらいに揃えればこうなりますが、日本人の髪質だったら、サイドはもう少し短くするといいかもしれません」

『アイリッシュマン』
さりげないツーブロックで天パを抑える
「よく見るとほんのりツーブロックなんですよ」と島田さんが指摘するのは、『アイリッシュマン』のアル・パチーノ。20世紀半ばのアメリカ史を活写した本作でアルが演じたのは、裏社会を牛耳るジミーだ。
「この時代にそれはあり得ないと、観賞後に実際のジミーの写真を検索したら、本当にツーブロックでした。かなりきつめの天然パーマなので、サイドが暴れないようにする工夫なんでしょう。今の若者のように、サイドの高い位置から白くなるまで刈り上げるツーブロックはヒップすぎますが、このくらいならビジネスシーンにも合いそうです」

スタイリング剤はツヤ有りか、ツヤなしか
「今回紹介する作品のエグゼクティブを見るとわかるのは、みんな額を見せていること。長さはどうあれ、前髪を上げている。実際に外資系金融企業にお勤めの僕のお客さんが言っていました。“海外のエグゼクティブの方はオンライン会議だとしても前髪を上げています”と。そこがまず清潔に、そして実直に見えるポイントだと思います」
また、島田さんは整髪料に関しても、興味深い指摘をする。
「海外の方って、意図的にツヤを出す整髪料を好まない方が多いんです。これらの登場人物もグリースなどは使ってない。マットワックスだったり、潤いを与える程度のヘアオイルだったり。清潔感のあるなしは、対峙した相手が決めること。マットに整えていることに対して何か思う人は多分いないけど、目立つほどツヤツヤだとそこに別の感想が乗ってきてしまいます。できるだけ相手に強い印象を与えずに整えることも、清潔に見える髪形の条件かもしれません」