3つのポイント
1.古代からの浮き畑継承と保護を観光と融合。
2.畑の野菜を収穫し、シェフがその場で調理。
3.参加者も地産地消や環境改善に貢献できる。
世界遺産のいにしえの湖から、未来へ発信する農業生態学
メキシコシティの中心から南へ車で1時間弱。700年以上前から浅い湖の上に木を植え、その根を利用し無数の浮き島の畑・チナンパを築いてきたソチミルコ地区がある。かつて湖上都市だった頃の風景を継承する地として1987年にユネスコ世界文化遺産に登録されたが、その観光スタイルは派手に飾り付けられた屋形船で宴会に興じるスタイルが一般的で、約60%の浮き畑が空き地のままだ。
この地で古代より行われてきた浮き畑農耕は、湖の底の数千年分の栄養分がある泥を使い、化学肥料を必要としない。その復興に意義を見出したルシオ・ウソビアガは、大学で哲学を専攻する傍らその基礎を学び始め、2020年に〈アルカ・ティエラ〉を設立。周辺の35の農家と組合を作り、浮き畑で栽培した作物を市内の飲食店に卸すほか、宅配も行う。さらに実際に畑に赴き農業生態を学びながら、収穫された野菜を使った郷土料理を味わえるツアーも主催。メキシコシティの人気店〈PUJOL〉のエンリケ・オルベラなど、有名シェフを招いてのランチイベントは、流行に敏感なフーディ層から好評だ。
ツアーの収益は同地の保護を続けるための大きな糧となる。「大地や自然との繋がりを知る有機農業従事者を守り、支援することは、気候変動への大きな対策となる」とウソビアガ。古代の浮き畑には、現代社会の有機農業と新しい観光業の形のヒントが詰まっているのだ。