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世界的プロレスラーは、“コーヒー宇宙”を漂う。中邑真輔がハンドドリップを始めた理由

スペシャルティを“飲む”ことは当たり前の時代。いま、コーヒー好きたちは、淹れながら一歩先の“沼”にはまっているもよう。仲間とのコーヒー談議に、ラテアート、自家焙煎まで。より深く楽しむ人たちのコーヒーライフ。

本記事も掲載されている、BRUTUS「おいしいコーヒーのガイドブック。」は、2024年9月1日発売です。

photo: Hiroyuki Takenouchi / text: Mikado Koyanagi

プロレスラー中邑真輔さんは、遠征先のコスタリカで、わざわざ産地の農園を訪れるほどのコーヒー好きである。そんな中邑さんも、昔からコーヒー党だったわけではなく、ハンドドリップで淹(い)れるようになったのも比較的最近のことのようだ。

「そもそものきっかけは、ずっと前に奥さんが〈Prime Brunch〉というカフェを開くことになって、そこで出すコーヒー選びの参考にしようと、鎌倉の〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉さんを訪れたことです。マスターの堀内隆志さんがプロレス好きだというのも聞いていたんで、これは入り込みやすいんじゃないかといういやらしい期待もあって(笑)。それまで、試合前の気つけ薬代わりにとか、何となくコーヒーは飲んでいたんですけど、豆とか挽き方によってこんなに味が変わるものなのかと知って驚きました」

普段から愛用する〈コマンダンテ〉で豆を挽く。持参した豆は米・オーランドのロースター〈LINEAGE〉のコロンビア・カブリエル・カスターニ・ブエンディアの浅煎り。

そうしてコーヒーに開眼はしたものの、初めのうちは人に淹れてもらったものを飲むだけだったという。

「僕は、“コーヒー宇宙”って呼んでいるんですけど(笑)、コーヒーって温度で味が変わる、グラインドで味が変わる、豆の種類で味が変わる。すべてにおいて隙がないというか、そういう意味では、きっと手の届かない世界なんだろうと思っていたんです。家には電動ミルのみるっこもあって、それまで奥さんが淹れてくれていたんですが、僕が、とっつきやすそうなハリオのスイッチというドリッパーを見つけてきた。それで自分で淹れて飲んだら、堀内さんの豆も、いつも以上においしく感じられたんです。

それからは、家のコーヒー係は僕になりましたね(笑)。今は、グラインダーはみるっこかコマンダンテ。ドリッパーは、スイッチや、量によってはクレバーとか浸漬式のものを使っていたんですが、俺はぬるま湯に浸かっているんじゃないかと思って(笑)、今はグレイカノを使っています。僕は昔から王道を外すところがあって。そんな自分にピッタリなのがグレイカノだったんです」

中邑さんは、2016年にWWEに移籍し、その年からアメリカのフロリダ州オーランドを拠点に活動している。

「フロリダから中南米は近いんですよね。だから、こちらのロースターにはフレッシュな豆が入ってくるのを実感しています。そのせいか、こちらではライトローストが主流のような気がしますね」

そんな中邑さんに、今「コーヒー宇宙」のどのへんまで来たと思うか聞いてみた。

「まだ成層圏くらいのところじゃないですかね(笑)」

先生である〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉の堀内さんと飲み比べ
先生である〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉の堀内さんと飲み比べ。ドリッパーは〈ツバメコーヒー〉のワイスケドリッパー。
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