「品評会で出される稀少な豆を、飲み手に開く場所にしたいんです。それも、ただおいしく淹れるだけでなく、コースでは1つの豆に絞り、様々な抽出方法や、副食材と組み合わせることで、よりディープにそのコーヒーの魅力を伝えていきます」と、井崎さんと交代で店に立つバリスタの鈴木樹(みき)さんは言う。
この日の豆は、バリスタの世界大会でも頻繁に使用されるパナマの生産者、ジャミソン・サベージによるもの。彼が経営する農園のなかでも、標高2300m、平均気温15℃という、コーヒーノキにとって最も過酷な条件のアイリス農園で栽培される、まさに珠玉のロットである。
「良いコーヒー豆ほど味わいは複雑。だから副食材と掛け合わせて、個性をよりわかりやすくします。例えば、メニューの一つであるモクテルでは、コーヒーが持つトロピカルな味わいを強調するために、西表島(いりおもてじま)のマンゴーを使っています」
店を後にする頃には、これまでいかに“なんとなく”コーヒーを飲んでいたかに気づく。飲み手のコーヒーに対する興味やリテラシーが、自然と上がる装置がコース形式なのだ。