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25年の時を経て、クレール・ドゥニの幻の傑作が遂に公開。映画『美しき仕事』の舞台裏

まだ観たことがないという人は、なんとしても観た方がいいい。この無類の傑作を。クレール・ドゥニが1999年に発表した『美しき仕事』は、後進の映画作家らに多大な影響を与え、権威ある映画誌『Sight & Sound』の「史上最高の映画」ランキングで7位に選出されるなど、最上級の評価を受けてきた。にもかかわらず、これまで日本での劇場公開はなし。そんな幻の一作が、25年の時を経て、遂に公開される。「この映画は、ある意味ではアクシデントでした」。鬼才が撮影当時のことを振り返る。

photo: Wakana Baba / text: Yusuke Monma / edit: Emi Fukushima

私はただ、撮りたい映画を撮りたかっただけ

『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスや『aftersun/アフターサン』のシャーロット・ウェルズがその影響を公言する『美しき仕事』は、アフリカ北東部のジブチが舞台。そこで訓練に励む兵士たちの姿を通して、躍動する肉体と葛藤する精神が、純粋で圧倒的な美とともに描き出される。

「なぜアクシデントだったかというと……」

クレール・ドゥニは語りだす。

「これはテレビ局から依頼を受けた作品で、本当に低予算。わずか4週間という限られた期間に、ジブチで撮影しなければならなかった。しかもジブチでは現地の軍人たちに製作を妨害され、撮影中もずっと双眼鏡で見張られていた。それが結果的にこのような作品に仕上がったのだから、アクシデント以外のなにものでもないでしょう?言ってみれば、素晴らしいアクシデントね(笑)」

クレール・ドゥニ
映画監督のクレール・ドゥニ。

『美しき仕事』がなによりも素晴らしいのは、灼熱の陽光の下、スタッフには振付師を加え、兵士たちの規則的な訓練の様子をダンスのように映し出したところだ。

「小さい頃、外国人部隊の駐屯地を遠くで眺めながら、その訓練にダンス的なものを見ていた。撮影前の2ヵ月間、パリで体育館を借りて訓練のリハーサルをした当初は、ただの肉体的な訓練だった。でも徐々に、それがダンスのようになっていったの。振付師のベルナルド・モンテは、父親が実際に外国人部隊に入っていたので、それを踏まえて兵士たちの動きを考えたんだと思います」

近年、男性中心の映画史を更新する動きが進むなかで、この映画も、彼女自身も、評価が見直されてきた。

「私も映画を撮り始めた頃は、女なら編集だけやってればいい、などと言われました。その頃とは違う自由が、今の女性たちにはある。でも私は、女性としてキャリアを築いてきた困難をあまり語りたくなかった」

それはなぜ?

「私は撮りたい映画を撮りたいだけだったから。うん、ただそれだけだったんです」

クレール・ドゥニ
『美しき仕事 4Kレストア版』
監督:クレール・ドゥニ/出演:ドニ・ラヴァン、グレゴワール・コラン/フランスの外国人部隊に所属した兵士が振り返る、駐屯地ジブチで過ごした日々。5月31日、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかで全国順次公開。