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レイシストが大統領になったらアメリカは……。アレックス・ガーランドに聞く、映画『シビル・ウォー』

今年最も政治的で、最も衝撃的な一作。しかも驚くほど予見的な———。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、アメリカで内戦が勃発したという設定のもと、その恐怖と惨状を緊迫感たっぷりに映し出す。『28日後…』の脚本を手がけ、長編デビュー作『エクス・マキナ』ではアカデミー賞視覚効果賞を受賞した監督、アレックス・ガーランドはいま何を憂えているのか。

photo: Satoko Imazu / text: Yusuke Monma

———この作品の斬新なアイデアはどうやって生まれましたか?

アレックス・ガーランド

いや、そんなに斬新なアイデアではないんじゃないかな。というのも、明らかなミソジニストで、レイシストでもある人物が大統領になって以降、誰もがアメリカ崩壊の危機を憂慮していたから。そんな男を大統領に擁立したら、いったいどんなことが起きてしまうのか、みんなが不安に感じていたはずです。

———それはイギリス人であるあなたも?

ガーランド

ええ。たしかにドナルド・トランプは最たる例だけど、我が国でもボリス・ジョンソンが政権の座に就き、中東ならネタニヤフ、南米ならボルソナーロなど、世界各国で過激なポピュリストが台頭してきた。アメリカはそういった現状を象徴していると思っていました。

第二次世界大戦終結の25年後、1970年に生まれた僕にとって、一国がファシズムに走る状況は非現実的なものではありません。我々はそれを防がなければいけない。そう真剣に考えて、ストーリーテリングした結果がこの作品です。

アレックス・ガーランド
映画監督のアレックス・ガーランド

———日常的で見慣れた場所が戦場と化す、その視覚的なインパクトが本作では強烈です。本作に限らず、あなたの監督作は視覚的なイメージが鮮烈ですが、脚本の段階でどれだけビジュアル的要素をイメージしていますか?

ガーランド

「脚本家ならダイアログが大事でしょう?」とみんな思うかもしれないけど、僕はセリフ以上にイメージを重視している。脚本の第1稿を書き上げるのはだいたい2、3週間。

その間、脳内のスクリーンに映像を投射して、一本の映画を観るようにしながら、ゆっくり書き上げていくんだ。通常のスクリーンとは違って、360度を見渡すような感じで。

———ちなみに視覚的な面では、どんな映画人の影響を受けてきましたか?

ガーランド

こういう質問を受けると、たいていの人は「誰の名前を挙げたらカッコいいだろう?」と考えて答えるよね。僕もカッコよく「スタンリー・キューブリック」と答えたいところだけど、実際はレイ・ハリーハウゼン(笑)。

8歳くらいの頃、彼の特撮作品『アルゴ探検隊の大冒険』や『シンドバッド七回目の航海』を何度も繰り返し観て、強い影響を受けました。

———劇中で使用している既成曲のセレクトが独特ですよね。ニューヨークのアンダーグラウンドパンクを代表するバンド、スーサイドの曲が2曲も使われていたり。

ガーランド

彼らは偉大なバンドだよね。今回の選曲で意識したのは、時代を特定できてしまうような曲を使わないこと。だから敢えてあまり知られていない曲を使ったんです。

———あなたの監督作は、その音楽や映像も含めて、一度観たら忘れがたい作品になっています。大量のコンテンツが溢れ、消費されてしまう現在、忘れられない作品を生み出すために大事なことは?

ガーランド

単に刺激的な作品なら、その刺激はすぐに終息してしまうと思う。観客は僕らが考えている以上に高尚な作品を求めているはずだよ。

例えば『エクソシスト』や『タクシードライバー』は、実は複雑な問いを投げかけている。結局、観る人はそういう作品に長く魅了され続けるんだ。重要なポイントは、語ろうとする物語に対して、どれだけ思慮深くなれるかということなんじゃないかな。

『シビル・ウォーアメリカ最後の日』
監督・脚本:アレックス・ガーランド/出演:キルステン・ダンスト/激しい内戦が続くアメリカ。大統領への単独取材を狙うジャーナリストらは、ホワイトハウスを目指すが……。10月4日、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。