———この作品の斬新なアイデアはどうやって生まれましたか?
アレックス・ガーランド
いや、そんなに斬新なアイデアではないんじゃないかな。というのも、明らかなミソジニストで、レイシストでもある人物が大統領になって以降、誰もがアメリカ崩壊の危機を憂慮していたから。そんな男を大統領に擁立したら、いったいどんなことが起きてしまうのか、みんなが不安に感じていたはずです。
———それはイギリス人であるあなたも?
ガーランド
ええ。たしかにドナルド・トランプは最たる例だけど、我が国でもボリス・ジョンソンが政権の座に就き、中東ならネタニヤフ、南米ならボルソナーロなど、世界各国で過激なポピュリストが台頭してきた。アメリカはそういった現状を象徴していると思っていました。
第二次世界大戦終結の25年後、1970年に生まれた僕にとって、一国がファシズムに走る状況は非現実的なものではありません。我々はそれを防がなければいけない。そう真剣に考えて、ストーリーテリングした結果がこの作品です。
———日常的で見慣れた場所が戦場と化す、その視覚的なインパクトが本作では強烈です。本作に限らず、あなたの監督作は視覚的なイメージが鮮烈ですが、脚本の段階でどれだけビジュアル的要素をイメージしていますか?
ガーランド
「脚本家ならダイアログが大事でしょう?」とみんな思うかもしれないけど、僕はセリフ以上にイメージを重視している。脚本の第1稿を書き上げるのはだいたい2、3週間。
その間、脳内のスクリーンに映像を投射して、一本の映画を観るようにしながら、ゆっくり書き上げていくんだ。通常のスクリーンとは違って、360度を見渡すような感じで。
———ちなみに視覚的な面では、どんな映画人の影響を受けてきましたか?
ガーランド
こういう質問を受けると、たいていの人は「誰の名前を挙げたらカッコいいだろう?」と考えて答えるよね。僕もカッコよく「スタンリー・キューブリック」と答えたいところだけど、実際はレイ・ハリーハウゼン(笑)。
8歳くらいの頃、彼の特撮作品『アルゴ探検隊の大冒険』や『シンドバッド七回目の航海』を何度も繰り返し観て、強い影響を受けました。
———劇中で使用している既成曲のセレクトが独特ですよね。ニューヨークのアンダーグラウンドパンクを代表するバンド、スーサイドの曲が2曲も使われていたり。
ガーランド
彼らは偉大なバンドだよね。今回の選曲で意識したのは、時代を特定できてしまうような曲を使わないこと。だから敢えてあまり知られていない曲を使ったんです。
———あなたの監督作は、その音楽や映像も含めて、一度観たら忘れがたい作品になっています。大量のコンテンツが溢れ、消費されてしまう現在、忘れられない作品を生み出すために大事なことは?
ガーランド
単に刺激的な作品なら、その刺激はすぐに終息してしまうと思う。観客は僕らが考えている以上に高尚な作品を求めているはずだよ。
例えば『エクソシスト』や『タクシードライバー』は、実は複雑な問いを投げかけている。結局、観る人はそういう作品に長く魅了され続けるんだ。重要なポイントは、語ろうとする物語に対して、どれだけ思慮深くなれるかということなんじゃないかな。