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世界からお届け!SDGs通信 シンガポール編。“ゼロ・ウェイスト”を目指すホテル

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はシンガポールから!

text: Ayako Tada / edit: Hiroko Yabuki

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緑化計画の中心的存在である、グリーン・ビルディング設計を徹底

シンガポールでは、“グリーン・シティ”に向けた都市デザインのアプローチを、ここ20年ほどの間でグッと進めてきている。たとえば2021年に導入された「シンガポール・グリーンプラン2030」では、「2030年までに100万本の木を植え、それによる7万8000トンのCO₂削減を目指す」「2030年までに国内の建物の総床面積80%を緑化する」といった目標が掲げられた。これに基づき、島内の東西を結ぶ全長62kmの横断トレイルの建設が始まるなど、島内の緑化が加速。

とはいえ、東京23区と同等程度の国土の当地。植樹できるスペースが限られることから、ポイントとなるのがグリーン・ビルディングだ。なかでも「旅行者の中にはSDGsへの関心度が高い人が多いため、ホテルが先行してグリーン・ビルディングを進めている」と、シンガポール国立大学のビジネススクールで都市計画学部長を務めるクワン・オク・リー准教授は話す。

多くのホテルが環境に優しいつくりを目指すなか、当地で今もっとも注目されているのが2023年6月にオープンした〈パン・パシフィック・オーチャード〉だ。“ゼロ・ウェイスト・ホテル”を国内で初めてコンセプトに据え、先端の循環システムを導入している。グリーン・ビルディングの実現に向け、設計を担ったのはWOHA。建物を植物で覆い、機械換気なしで運営可能な「オアシア・ホテル・ダウンタウン」をはじめ、これまでも高い実績を誇ってきた国内大手の建築事務所である。同ホテルは国内一の繁華街・オーチャード・ロードに面している。23階建ての建物のところどころに吹き抜けがあり、そこに木々が生い茂っている様子は、ショッピングエリアにおいて異彩を放つ外観だ。しかしこれこそがグリーン・ビルディングの骨格を担った設計。4つの空中庭園を設け、そこに土地面積に対して倍以上の植物を植えた。

「巨大なスカイテラスを張り出しにすることで、自然光を自在に遮光・採光することができます。換気が自然になされるほか、放射冷却効果もあるため、エアコンの必要性が減るんです」とWOHAのホン・ウェイ・プア氏。無理なく植物が育成できるよう、在来種を中心に植樹したそう。雨水貯水システムや、館内で出る食品廃棄物を栄養剤に変換するバイオ消化器システムの導入も、持続可能なガーデン維持を実現している。

また、屋上に390枚の太陽光パネルを設置し、共用エリアの電力としていたり、客室においてもスイスプロ製の濾過機能付き給水機を置くことでペットボトルの使用量を削減する試みも。環境負荷を減らす大小さまざまな仕組みを取り入れた同ホテルは、シンガポール建設局から与えられるグリーン認証の中で最高位となるグリーンマーク・プラチナの取得を果たした。「オーチャード・ロードは、かつて果樹園があったエリア。私たちはこのホテルの庭園をもって、果樹園を復活させたかったんです。これからも持続可能な新しいホスピタリティ体験を創造していきたいと思っています」。総支配人のマルセル・ホルマン氏の言葉からは、同ホテルの意気込みが感じられる。

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