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世界からお届け!SDGs通信 パリ編。2000平米の庭園とビオ食材のレストランを擁するニュースタイルホテル

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はパリから!

text: Motoko Kuroki / edit: Hiroko Yabuki

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天然素材でできた建物と、地元産食材を使うレストランが自慢

パリ北側のサントゥアンは、約150年の歴史を持つ蚤の市で有名。若者も多く活気に満ちた界隈だ。2022年、ここにホテル〈MOB HOUSE〉がオープンした。業界で「ホテル職人」との異名を持つシリル・アウイゼレートは、ブルックリン風のヒップで洗練されたスタイルと、環境や地域社会との融合を目指す姿勢で知られている。そんな彼とホテル起業家のミシェル・レイバー、そしてデザイナーのフィリップ・スタルクとの協働で生まれたのが〈MOB HOUSE〉だ。

2000平米ほどに木々を植えた緑豊かな庭園が、木材や粘土などを建材としたホテルを取り囲む。客室アメニティもボルドーの職人による認証オーガニック製品を採用。外側も内側も、あらゆる面で可能な限り天然素材を使っていく。全長20mのプールは屋外に設置され、ここでも季節を感じることができる。

「建物の外の空間をどうするかということは、私たちにとっての『ラグジュアリー』の定義と繋がってきます。プールもレストランのテラスやジムも、ほとんどの共有スペースは庭に面するようにしました」とアウイゼレート。

彼が軸としているコンセプトに「ソーシャル・エコロジー」がある。1960年代にアメリカの哲学者マレー・ブックチンが提唱したもので、生態系の問題と社会問題を繋げて考え、共同体主義に基づいた人間の発展によってより環境に適応した社会モデルへ辿り着こうという思想だ。それは、食にもしっかりと表れている。〈MOB HOUSE〉付属のレストラン「フゥイユ・ド・シュウ」では、使用食材の75〜95%がパリ近辺地域での有機栽培によるもの。フランス政府によるオーガニック認証も受けている。メニューにはフレンチの伝統が反映され、季節の素材を活かした料理は彩り豊かだ。

自然環境との共生をイメージさせる場でありつつ、新しい世代のニーズにも応える。利用客はノマドワーカーを想定しており、一部の客室は「寝室」「ワークスペース」「ミーティングルーム」の3要素を組み合わせで構成。当然、ホテル自体が出会いと交流のソーシャルスペースにもなる。庭園を通して季節を味わい、料理を通して生態系を感じる。仕事とリラックスが同時に行われ、人と自然がつながる。〈MOB HOUSE〉は単なる宿泊場所ではなく、これからの社会の在り方に関する一つの提案でもある。

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