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一風変わったカバーがクセになる!DJ・珍盤亭娯楽師匠が選ぶ、歌謡曲の隠れた名盤9枚

ヒット曲だけが歌謡曲ではない!DJ・珍盤亭娯楽師匠が選ぶ、ハズレなしの隠れた名盤9枚。気に入る曲があったら、ぜひ誰かに「これ、知ってる?」。

photo: Natsumi Kakuto / text: Masae Wako

一風変わった味つけ
クセになる名カバー

「DJで盛り上がるのは、聴き馴染みのある歌なのにアレンジが全然違う歌謡曲カバー。途中まで気づかなくても、有名なフレーズが来た瞬間に“これ明菜ちゃんだよね⁉”って、嬉しさと興奮と驚きが一斉に巻き起こるんです」

迷盤珍盤でフロアを沸かす珍盤亭娯楽師匠がそう語る。例えばブルータス読者へのおすすめは、60年代の昭和歌謡を、ディスコが流行った70~80年代にカバーした曲。

「元ウタの懐かしさと、カバー当時の最新サウンドを両方味わえる重層的な面白さ。有名すぎる坂本九さんの『上を向いて歩こう』もディスコアレンジだと新鮮です」

昭和歌謡は哀愁や濃厚さも魅力だったりするが、最近はそれをシティポップやハウス風にアレンジした爽やかカバーも多い。

「若い人でもすんなり聴けて昭和歌謡の良き入口になりますね」

そんな師匠が最近注目するのは“短冊”。主に90年代に制作された8センチシングルCDだ。

「人気者が人気者をカバーする豪華な企画ものや、冒険しすぎのリミックスバージョンが収録されたカバーなど珍盤も多い。DJ界隈でも火がつき始めています」

「時代」薬師丸ひろ子、「ブルー・ライト・ヨコハマ」秋山絵美、「LOVE SPACE」槇原敬之、「SUKIYAKI」DiSCO GANG、「ラヴ・イズ・オーヴァー」なかの綾、「ミ・アモーレ」狩人、「東京ららばい」田中裕梨、「夢想花」(DONDE VOLABAS)ロス・マチュカンボス、「勝手にシンドバッド」榊原郁恵

「時代」薬師丸ひろ子

「中島みゆきの大ヒット曲『時代』(1975年)をめちゃくちゃ澄んだ高い声でカバー。原曲の重めトーンとは逆の優しいアレンジで、同じ曲でも全く違う雰囲気です。薬師丸ひろ子が歌うカバーは、柔らかな人柄が滲み出た名曲が多い。DJではシメの一曲に使いたくなります」。

作詞・作曲:中島みゆき/編曲(カバー版も):船山基紀。1988年。

「ブルー・ライト・ヨコハマ」秋山絵美

80年代のアイドルが、いしだあゆみのミリオンヒット(1968年)をディスコアレンジでカバー。「イントロでは何の曲かわからないけれど、歌に入った瞬間“これ知ってる!”となるのが気持ちいい」。「ビューティフル・ヨコハマ」のカップリング。

作詞:橋本淳/作曲・編曲:筒美京平/アレンジ:鷲巣詩郎。1988年。

「LOVE SPACE」槇原敬之

「山下達郎のキラキラした多幸感ある曲(1977年)を槇原敬之が彼らしい高音で歌い切り、ポンタさんのソウルフルなドラムが引き締める。カッコよすぎてクセになる」。名ドラマー、村上“ポンタ”秀一の30周年記念アルバム『M
Y PLEASURE~FEATURING GREATEST MUSICIANS~』より。

作詞:吉田美奈子/作曲:山下達郎。2003年。

「SUKIYAKI」DiSCO GANG

坂本九の「上を向いて歩こう」(1961年)を、「スーパー・ディスコ・サウンドでリバイバル!」(ジャケットコピー)。「歌が女性コーラスで入っているのがキャッチーで新鮮。ジャケもディスコマニアとして知られるソウルイラストレーターの江守アイで、70年代気分満載」。

作詞:永六輔/作曲:中村八大/カバー編曲:ボブ佐久間。1976年。

「ラヴ・イズ・オーヴァー」なかの綾

欧陽菲菲の名曲(1979年)を、ノリのいいサルサで大胆にアレンジ。「哀愁のある昭和歌謡を、ラテンやジャズでさらっとカバーするのが上手なシンガー。原曲が持つ新たな魅力に気づかせてくれます。新旧で比較しながら聴くのも面白いかも」。7インチシングル「ホテル」のカップリング。

作詞・作曲:伊藤薫。2013年。

「ミ・アモーレ」狩人

「『あずさ2号』(1977年)の男性デュオが、中森明菜の名曲をめちゃくちゃうまいハモりで情緒たっぷりに歌う。まさに“これ知ってる?”な一枚です。4曲入り短冊(8センチCD)で、カップリングのカラオケバージョンもいい。インストとは違うBGM感が味わい深いです」。

作詞:康珍化/作曲:松岡直也/カバー編曲:奥居史生。1996年。

「東京ららばい」田中裕梨

「トレンディな東京の風景を歌った中原理恵のヒット曲(1978年)を、さらっと軽やかにカバー。繰り返し聴いちゃう引力があるんです」。人気ジャズグループBLU-SWINGのボーカリスト田中裕梨が、70~80年代の歌謡曲をシティポップ風アレンジで歌う『CITY LIGHTS 2nd Season』より。

作詞:松本隆/作曲:筒美京平。2019年。

「夢想花」(DONDE VOLABAS)ロス・マチュカンボス

「とんでとんで……のフレーズが印象的な円広志の曲(1978年)を、なぜかパリのバンドがスペイン語でカバーした超珍盤。“とんでとんで”を“dónde, dónde”(どこ? どこ?)と歌ってて、もう何がなにやら。外国コーラスグループのダサさ全開で可笑しい」。

作詞・作曲:円広志/編曲:船山基紀。1979年。

「勝手にシンドバッド」榊原郁恵

「アイドル時代の郁恵ちゃんが、サザンオールスターズのヒット曲(1978年)をコンサートでカバー。早回し?と錯覚するほど超高速で歌いながら、加速するバックバンドの演奏に必死でついていってる。そのハイテンションな彼女の面白さを味わう一曲です」。ライブ盤『HOT SUMMER DREAM』収録。

作詞・作曲:桑田佳祐。1979年。