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聴けば誰もが楽しい。新人バンド、シャッポ登場!

昨年12月にリリースしたファースト7インチシングル「ふきだし」が即日ソールドアウトとなるなど、早くも大きな注目を集めるシャッポ。1940年代の大衆音楽をベースにしたインスト曲で、楽しさと心地よさを探求する2000年生まれの2人、福原音と細野悠太はそもそもなぜバンド結成に至ったのか?結成以前から細野晴臣のラジオ番組に出演し、イベントでは共演を行うなど、細野の音楽的遺伝子を濃密に受け継ぐ2人が語る、抱腹のバンドヒストリー。

photo: Taro Hirano / text: Yusuke Monma

ルーツは1940年代。シャッポがファーストシングル「ふきだし」でデビュー

———2人が出会ったのはいつですか?

細野悠太

まず音くんが“うんちゃい”の事務所に突撃してきたんですよね。

福原音

あ、悠太くんは細野晴臣さんのことを愛称で呼んでるんです。うんちゃいって。僕は高校の卒業アルバムに「1940年代生まれ」って書くくらい、40年代の音楽がずっと好きだったんですね。でも僕が興奮する40年代のエッセンスを、音としてちゃんと出してる人は細野さんしかいないと思っていたので、大学進学で上京した機会に絶対に細野さんに会いたいなって。

———突撃したというのは、アポなしで突然訪ねたということ?

悠太

そうです、本当に。

いけないことをしてしまって……。計画的だったわけじゃないんです。4月の第2週、1限のフランス語の授業に出られず、それがショックだったんですね。初めて授業を欠席してしまって。どうしたら気を取り直せるだろうと思ったときに、もう細野さんのところへ行くしかないなと。でも最寄り駅に降り立ったあとも、行こうかどうか悩んでたんです。そうしたらタモリさんが歩いていて。

———え、本物の?

はい、サングラスを掛けた、あのオンの姿で歩いていたので、今日がその日だって決心したんです。

写真左から、細野悠太(ベースほか)、福原音(ギターほか)の2人。

気の合う友人からやがて

———結局は細野さんに会うことができて、おまけに音楽の趣味嗜好が似ていることから「僕の生まれ変わりかもしれない」と言われたんですよね。

今考えると、初対面のときはかなり失礼なことを言ってたかもしれない。「なぜ細野さんは40年代の音を出せるんですか?僕はできないのに」みたいな。

悠太

それが良かったのかもね。僕はそのときには会えなくて、たぶん次の日かな、僕が大学で入ってた音楽サークルの新歓イベントに音くんが来て。それが初対面です。

細野さんから、うちの孫と顔も背格好も似てるし、会うと面白いかもって言われたんですよね。それからよく細野家に行くようになって。悠太くんが家にいないときも、僕はみんなと一緒にご飯を食べたりして、でも悠太くんと似てるから問題なしみたいな。

悠太

どういうこと?(笑)

細野さんは僕をバーチャルな孫、バー孫って呼んでました(笑)。そのうち悠太くんが僕の家によく来るようになったんだよね?

悠太

音楽を聴きながら、いろんなことに詳しいので、音くんの話を夜通し聞くみたいなことをしょっちゅうしてました。お酒を飲むとかではなく、僕はソフトドリンクだし、音くんはコーヒーを飲んで。

タコライスを一緒に作って食べたりね。僕は40年代の音楽や映画、お笑いの話をガーッとして、悠太くんがそれを聞いて。悠太くんは細野さんの音楽をあまり聴いたことがなかったんですよ。だから「え、うんちゃいってユーミンと一緒にやってたの?」とか。

悠太

そのレベルで、全然知らなかったんです(笑)。

僕は同世代の友達がずっといなかったから、初めて気の合う友達ができたなって感じで。そうしたら突然、細野さんのラジオ番組『Daisy Holiday!』に2人で出ることになって、デビュー50周年イベントでも細野さんと3人で演奏することになったんですよね。

———今聞いた話はすべて2019年の出来事ですけど、シャッポの結成も19年ですよね?

人前でそうやって演奏したこともあって、2人で音楽をやるのが自然かなと。あ、思い出した。ラジオのあと、3人でジョナサンに行ったときに、一つの節目かなと思って細野さんに感謝の手紙を渡したんです。そうしたら細野さんから「悠太をよろしくね」みたいに言われて、ちゃんとケジメをつけなきゃなって。それで細野さんがYMOを結成したときの故事にならい、ノートにコンセプトを書いて、それを悠太くんにプレゼンテーションしたんです。

———細野さんがYMOを結成するときに、坂本龍一さん、高橋幸宏さんに直筆のノートを見せた話は有名ですよね。そこには「シンセサイザーを使用したエレクトリック・チャンキー・ディスコ~」というコンセプトが書かれていて。

ちょっと気負いすぎてました(笑)。

本人持参のLPとCD。「音くんの家ではたくさん音楽を聴いて、話して」(悠太)。「バージョン違いを聴き比べたりね」(音)

羊羹ミュージックとは?

———そのノートにはシャッポ結成に向けたどんなコンセプトが?

悠太

……それが覚えてないんですよね、本当に申し訳ないんだけど。なにが書いてあったっけ?

「羊羹(ようかん)ミュージック」って書いてあったでしょう?「いいじゃん!」って反応してくれたのに。

悠太

本当に?

羊羹ってパッと見は暗くて、いろんなものを含んでそうだけど、食べると甘いし、楽しい気分になれる。それと同じで、実は深みがあるけどパッと耳にしたときに楽しい、そういう大衆音楽の楽しさ———僕が好きな40年代の音楽も、今はニッチかもしれないけど、当時はみんなが楽しんで聴いていたんです———を煮詰めた音楽をやろうって。そういう意味で羊羹ミュージックと名づけたんですね。

悠太

いいね。いいコンセプトだ。

……5年越しで?ところがそれから4年、デモ作りはしていたものの、身近な人たちにしか聴かせてこなくて。

悠太

だから「ふきだし」をリリースしたとき、周囲の人たちは「ようやく出たね」みたいな反応でした。ホッとしたっていうような。

細野さんが聴いて、褒めてくれたんだよね。

悠太

うん、面白かったって。それでちょっと自信がついたかもしれないです。

———自分史的に影響を受けたアルバムを聞きたいんですけど、なかでも「ふきだし」に影響を与えた作品というとなんですか?

悠太

ピノ・パラディーノとブレイク・ミルズの『Notes with Attachments』は、今やってることにも通じるアルバムだと思います。楽器の力だけでズンズン進んでいく感じというか。

現在進行形で影響を受けてる感じかもしれないですね。「ふきだし」では、そういう感覚で2人で取り組みました。

悠太

いろんな楽器を使っていて楽しいんですよ。福岡まで2人でライブを観にいった、そのときの影響も大きいです。

僕の場合、自分史的なことを踏まえると、もともと音楽を神聖視していて、自分でやるという考えはなかったんです。でもやりたいという相反する気持ちもあって、細野さんに会ったり、悠太くんのサークルに行ったりするうちに、音楽は自由にやってもいいものなんだなって。上京後にお世話になった片岡知子さんからも、音楽は聴くものでもあるし、やるものでもあるんだということを教わった気がします。『スキマの国のポルタ』は、知子さんが音楽を手がけているとは知らずに、子供の頃に観ていて。

悠太

僕もめっちゃ好きでした。音楽も良くて。

子供向けの番組のサウンドトラックとは思えないくらい、アバンギャルドな曲が多いんです。「ふきだし」を作っていた頃にめちゃくちゃ聴いて、その音使いとかから影響を受けましたね。

新人バンド、シャッポの二人
「ふきだし」は2人による共作曲。これまで制作したデモには歌ものもあり、今後歌ものに挑戦していくか目下思案中とのこと。

自分史に大きな影響を与えた3枚のアルバム

福原音が選んだ3枚

『BOOGIE-WOOGIE』/Will Bradley & His Orch. With Ray McKinley
1920年代から活動したトロンボーン奏者とドラマーによる54年のアルバム。「14、15歳の頃にYouTubeで聴いたのが最初。シャッフルとエイトビートが混ざる、このアルバムにあるようなブギウギのエッセンスに惹かれて、1940年代の音楽が好きになりました」

『スキマの国のポルタ』オリジナル・サウンドトラック/片岡知子
NHK Eテレで放送されたアニメーション作品のサウンドトラック盤。片岡が2020年に亡くなったあと、21年にアナログレコードで復刻された。「1940年代の音楽とか、変わった音楽を好きになったのは、小さい頃に観ていた『ポルタ』などの影響かもしれません」

『HoSoNoVa』/細野晴臣
2011年発表のソロアルバム。「出会ってから、40年代のこととは関係なく、細野さんの過去作をちゃんと聴くようになったんですよね。『泰安洋行』や『オムニ・サイト・シーイング』もすごく好きなんですけど、いちばんよく聴いてしまうのがこれです」

細野悠太が選んだ3枚

『Discovery』/Daft Punk
フランスの電子音楽デュオによる2001年作。「小さい頃、母親が掃除のときによく流していたアルバム。中学生のときにちゃんと聴くようになって、それから電子音楽にハマりました。『Harder Better Faster Stronger』のギミックはピタゴラスイッチみたいで面白い」
『Kid A』/Radiohead
イギリスのロックバンドが2000年にリリースした金字塔的なアルバム。「大学生のとき、友達に薦められて聴きました。それまでギターの音が苦手だったんですけど、これをきっかけに聴けるようになって。シンセサイザーの音も良いので、お酒を飲みながら家でずっと流してます」
『Notes with Attachments』/Pino Palladino and Blake Mills
70年代から活躍するベーシストと、プロデューサーとしても活動するシンガーソングライター兼ギタリストによる2021年のコラボレーション作品。「音くんに教えてもらったんですよね。ベースがやっぱりカッコいいです、ピノ・パラディーノだし。サム・ゲンデルも参加しています」