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猫のウェルビーイングって?猫の福利厚生〜健康編〜

コロナ禍の影響や、動物愛護管理法の改正により、猫の社会環境が大きく変わっている。猫にとってのウェルビーイングとは?最新医療、保護猫をめぐる事情など、専門家の方々と「猫のための福利厚生」を考えてみた。

初出:BRUTUS No.936「猫になりたい」(2021年4月1日発売)

illustration: Sei Hasuda / text: Fumie Motoki

監修:藤井仁美(獣医行動診療科認定医)

心や体が良好な状態を表す「ウェルビーイング」が注目されている。猫にとってのそれとは何か、3つの段階に分けて考えた。

猫のウェルビーイングって?

日本語では「幸福」「豊かさ」と訳される「ウェルビーイング」。世界保健機関(WHO)の憲章には、「病気ではない、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)」とある。

動物は種類によって行動様式、欲求が異なる。もちろん、猫にも、人と違う欲求があるので、人目線ではなく、猫にとっての幸福を理解し、叶えてあげることが大切だ。

猫の欲求を満たすには、順序がある。最優先は、「肉体的な欲求」(Phase1)だ。ウェルビーイングを高めるためには身体的な健康が必要最低限の条件となる。十分な運動や必須の栄養を補える食事を整えて健康管理をしていきたい。次に考えたいのが、「精神的な欲求」(Phase2)。猫は犬のように群れず、基本は単独行動の動物。見知らぬ人や大きな音などを警戒しやすく、「安心」を求めている。穏やかに過ごせる環境を整えてあげよう。

最後に、「社会的な欲求」(Phase3)。猫は「個」で活動する動物だからこそ、家という小さな社会の中で、自分のペースが乱されないことを望んでいる。人やほかの猫、犬などとの関わり方に配慮をしたい。以上3つの欲求は順序を踏む必要がある。まずは肉体的な健康や、安心感を得る環境を整えて初めて、社会的な欲求へアプローチできる。そうすることで猫のウェルビーイングを高め、ひいては、共に暮らす飼い主にとっての喜びともなる。

Phase1:肉体的な欲求

食事、運動、睡眠を整え健康なカラダを作る

猫に精神的な安心を与え、良好な関係を築くためにまず叶えるべきは「肉体的な欲求」。例えば、食事。猫は完全な肉食動物であり、タンパク質と若干の脂質が重要な栄養素なので、過度な炭水化物は禁物。

運動に関しては、室内飼いの場合、キャットタワーを設置するなど運動量を増やす工夫が必要。ただし品種や、性別、年齢で、必要な運動量や、睡眠時間、食事量は大きく異なる。まずはその個体差を理解したい。さらに、近年は猫の寿命も延びており、加齢に伴う慢性腎臓病などの病気も増えている。7歳以上の猫は最低でも年に1回、健康診断を受けて、見えない体の内側もチェックしてもらおう。

蓮田静 イラスト

Phase 2:精神的な欲求

食事に排泄……いつも安心してアクセスできる

野生のネコ科動物「リビアヤマネコ」から進化した猫。人と暮らす今も「自分の身は自分で守ろう」とする気質が残っているので、安全を確保してあげることが大切だ。例えば来客や地震などで怖い思いをした時に身を隠せる場所があると、ストレスを軽減させられる。

また、食事、水、排泄場所(トイレ)、爪研ぎ器などの「必要物資」へアクセスしやすいことも、安心感につながる。元は狩猟動物なので、食事とは、「食べる」だけではなく「狩る」まで含む。つまり、獲物代わりのおもちゃで遊んで狩猟本能が満たされることも、広く捉えれば、猫にとっての「安心」の一つなのだ。ラグの下からおもちゃをチラ見せさせるなど、狩猟本能をかき立てる工夫を。

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Phase 3:社会的な欲求

猫のペースを考慮しつつ、人と猫の社会を築く

最後のフェーズとして、人やほかの猫や犬と良好な関係を築きたいという「社会的な欲求」に配慮をしたい。猫にとっての良好な関係とは、「この人・猫・犬と一緒にいればいいことがある」という自己中心的な態度が軸になっている。「仰向けで寝ていたらお腹を触られた」など、意に反する出来事で自分のペースが乱されれば、ストレスとなってしまう。

人との関係作りには、猫ごとの「好き」と「嫌い」を飼い主が見極めるのが大切。「触ると心地よさそうに目を細める部位だけ撫でる」「無理やり抱っこしない」など、普段からの観察が重要となる。猫同士や犬などとの関わりでは、仲が悪ければ食事や睡眠の場を遠ざけ、干渉し合わず暮らせるようにしたい。

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