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常識を打ち破る山形県のニットメーカー。大人が着たいカシミヤ〈yonetomi〉

冬になると、あたたかさが抜群のカシミヤセーターを着たい。とはいえ、大人が着るべきカシミヤとはどんなものだろうか?カシミヤアイテムに定評のある日本のブランドが考える魅力と新たな可能性を探った。

photo: Hiromichi Uchida / text & edit: Shigeo Kanno

常識を打ち破るカシミヤセーターの新顔

私たちがカシミヤと呼んでいるのは、カシミヤヤギから取れた動物繊維を指し、高級素材もしくは高級品として広く流通している。では、なぜ高級なのか?

その理由の1つ目は、極めて少ない産毛量による稀少性。カシミヤヤギは、寒暖差の激しい山岳地帯に生息し、なかでも内モンゴル産のカシミヤは稀少で、最高品質として世界的な流通量の最も多くの割合を占めている。2つ目に挙げられるのが、繊維としての優秀さ。カシミヤの原毛は、羊毛に比べ毛が細い。そのため肌触りが格段に良い。

そんなカシミヤの魅力を新たに追求し、これまでの常識とは違うもの作りを手がけるのが、山形県山辺町(やまのべちょう)でニットメーカーとして展開する〈米富繊維〉。1952年に創業し、現在は2代目の大江健さんが代表を務める。

創業以来、常識にとらわれずにニット製品を作り続けてきた〈米富繊維〉は、企画・生産・開発のほかに自社で手がける〈yonetomi〉〈COOHEM〉〈THISISASWEATER.〉の3ブランドを展開する。なかでも今回注目したのは、〈yonetomi〉でリリースされているリジッドカシミヤ。まずは、このセーターが完成した経緯を大江さんに伺った。

「これを構想したのは、コロナ禍でニット生産の受注が減り、ファッション業界も落ち込んでいる時期でした。偶然なのですが、お付き合いのある糸屋さんの倉庫で、眠ったまま未使用の織物用のカシミヤ糸を見つけたんです。織物用の糸は編み物用の糸に比べ強く撚られているんです。

だから、原料は同じカシミヤでも織物用の糸でセーターを作ると、硬すぎてふわっとした風合いには仕上げられない。そんなネガティブな理由があるから普通は使いませんが、それを逆手に取って、さらに撚りをかけて強撚の糸にして高密度に編んだカシミヤセーターを作ったらどうだろうか?と考えました。それをきっかけにテストを繰り返し、できたのがリジッドカシミヤです」

通常のカシミヤセーターには、弱く撚った糸を使用する。これは、柔らかさを出すために隙間を多く取る必要があるのと、高価な原料の節約が主な理由。一般的には、カシミヤセーターといえば、軽い、あたたかい、柔らかいという冬に嬉しい三拍子が揃うものだ。しかしそれらの常識を覆すのがこの一着。カシミヤセーターだけど、コットンスエットのようなハリ感があり、触れるとカシミヤの柔らかい風合いを感じる。そして、もちろんあたたかい。

「これは限界まで密度を高めて度詰めしているので、洗濯しても毛玉ができませんし縮みません。だからスエットのように毎日気兼ねなく着られます。洗濯すると少しずつ毛が起きるので、もっとふんわりするんです。リジッドデニムのように、生地の表情を自分でコントロールして、少しずつ経年変化を楽しめるので、リジッドカシミヤと名づけました」

〈yonetomi〉リジッドカシミヤのセーター
リジッドカシミヤのセーター(49,500円)とカーディガン(58,300円)。サイズは、0~4の5サイズ展開。

リジッドカシミヤの生産背景を覗く

〈米富繊維〉の特徴は、ミドルゲージからローゲージに特化したニットマシンが揃うことにある。ミドルゲージに分類されるリジッドカシミヤは、まず初めにセーターの各パーツをニットマシンで編む。この時に、編み地の厚みや強度をプログラムするために、的確なバランスを見つけ出すのが、工場の技術力の一つとなる。

〈米富繊維〉の工場内
〈米富繊維〉の工場内。ミドルゲージからローゲージに特化した島精機の全自動ニットマシンが40台以上並ぶ

「リジッドカシミヤは、この機械に対して太すぎる糸を無理やり編んでいるので、実は、編み機の数値的には、NGなんです。ほかの工場だったら絶対にやらない。機械が壊れちゃいますからね(笑)。それに、編む最中に傷が出やすいので、編む時間もかなり遅く設定しますから手間がかかります」

島精機の全自動ニットマシン
ニットマシンで編まれたリジッドカシミヤのパーツ。プログラムされたデータを基にパーツごとに編まれる。

そうして編まれたパターン状のパーツ類を職人が、一目ずつループとループを手作業で繋ぎ合わせて縫製する。ちなみにこの作業をリンキングと呼び、この工場でも使用されている手動のリンキング用ミシンは、ニットの名産地・山形ならではのものだ。さらに驚くのは一着4万9500円という値段設定。原材料だけでも普通のカシミヤセーターの何倍も使用されているというのに……。

「この価格でできるのは、自社工場であることと、数年分の原料をまとめて購入しているからですね。そして、一年を通して、生産ラインの隙間期間にリジッドカシミヤの生産工程を組んで、少しずつ生産しています。毎日着られる〈yonetomI〉のリジッドカシミヤは、コロナ禍で停滞した工場を支えたウチの期待の星でもありますが、一度着てみたらやみつきになるはずです。徐々に認知されロングセラーになりつつあるので、ぜひ一度、試してほしいですね」

〈yonetomi〉リジッドカシミヤのセーター
リジッドカシミヤ製品は、オンラインでも販売中。