『ヴィヴモン ディモンシュの30年』が発売
鎌倉にある〈カフェ ヴィヴモン ディモンシュ〉は、堀内隆志さん、千佳さん夫妻が営むカフェだ。今年6月、30周年を記念して、オープンしてからの道のりを記した書籍『ヴィヴモン ディモンシュの30年』が発売された。そのページをめくると、〈ディモンシュ〉を通して、90年代以降の日本のカフェカルチャーの変遷までもが見えてくる。現在、店内では、写真家の関めぐみさんによる、書籍には未収録の写真も展示中。パフェやコーヒーの写真が飾られた店内で、夫妻に、定番メニューの「パフェ ディモンシュ」と「プリンパフェ」を食べながら30年を振り返ってもらった。
30年間で変わってきた、お店の在り方
1994年、〈カフェ ヴィヴモン ディモンシュ〉は、パリのカフェのような場所をつくりたいという隆志さんの憧れから誕生。当時は所謂“カフェブーム”が始まる前で、コーヒーが飲める風通しのいい店はまだ珍しいものだった。
隆志さん「独学でお店を始めて、最初は手探りでやっていました。すると湘南に住んでいた先輩で、美術作家の永井宏さん、編集者の岡本仁さん、写真家の沼田元氣さんたちが気にかけてくれるようになり、いろいろとアドバイスをくれた。潰れちゃうんじゃないかと心配だったみたいです(笑)。それからは教えてもらったことを頼りに、“この仕事をずっと続けていくんだ”という決意で少しずつ勉強していきましたね」
学生時代からフランス文化が好きでカフェを始めた隆志さん。オープン当初、料理はお母さんの担当だった。定番メニューのワッフルやオムライスを生み出したのもお母さんだ。結婚を機に、2000年からは千佳さんがお店に参加し、料理を作るようになる。今では大人気で、お店の顔の一つとなったパフェ(今回の本の表紙にもなっている)がメニューに加わったのもこの頃だ。もともと会社員で、飲食店での勤務経験がなかった千佳さんは、その後は製菓学校へも通い、ますます料理に注力していくことに。
2002年ごろにはブラジル文化に魅了された隆志さん。メニューにブラジル料理のムケッカが加わったり、パーティーを開いたり、生活にも影響が。グッズ作りに夢中になり、カフェだけには収まり切らず、2店舗目にブラジル雑貨店、3店舗目にはブラジル音楽を扱うCDショップもオープンし、お店を行き来する日々が始まる。
2010年には、隆志さんが、〈斎藤珈琲〉の斎藤智さん、〈和田珈琲店〉の和田博巳さんなど先輩焙煎家たちとの出会いを経て、長年温めてきたコーヒーの豆の焙煎も始める。それを機に、コーヒーの生産地にも足を運ぶように。よりカフェとしてのオリジナリティを模索し始めた頃、2011年に東日本大震災が起こる。それを機に暮らしを見つめ直し、2店を畳んでカフェの1店舗のみに。そうしてできたのが、隆志さんが常にお店に立ち、千佳さんがキッチンで料理を作るという〈カフェ ヴィヴモン ディモンシュ〉の今のスタイルだ。
千佳さん「やっぱりお店のオーナーがいるといないとではお客さんの安心感が違うだろうと、あらためて思いましたね。今はコーヒーの栽培以外の部分は管理できていて、自分たちだけで完結できるのはすごくいいです」
30年前から通い続けるお客さんもいれば、地方からのお客さんも多い〈カフェ ヴィヴモン ディモンシュ〉。それはまさに、隆志さんが目指していた風通しのよい店だった。
隆志さん「開店当時から今も変わらず来てくれているお客さんもいますが、全体的には2、3年に一度大きく変わりますね。この5年くらいでもすごく変わった。ずっと変わらないのは学生が多いこと。修学旅行シーズンや遠足のときは特に多いです。先日は10年前に静岡から修学旅行で来た中学生の子が、10年ぶりに彼と一緒に来てくれました。福島から遠足で来た小学生が、お父さんとお母さんにも食べさせたいと言って、親子3人で来てくれたことも。ずっと通ってくれているお客さんももちろん大事ですが、そういう繋がりも大切にしたい」
ディモンシュのこだわり
コーヒー、料理、グッズ……〈カフェ ヴィヴモン ディモンシュ〉のこだわりの数々から3つをセレクトして紹介。
アイスコーヒー
隆志さん「コーヒー豆形の製氷皿を見つけて、ずっと使っています。氷ばっかりだとすぐに飲みきってしまうし、量を誤魔化したくないのでコーヒーを氷にしています。」
手書きのパッケージ
千佳さん「コーヒーの名称や精製方法など、最小限の情報を書いています。手書きの良さは小回りが利くところ。誕生日や記念日のメッセージをその場で書き足すこともできる。量り売りを始めようってなったときにパッケージを相談していて、試しに書いてみたらしっくりきたので、以来ずっと手書きです。書きすぎて腱鞘炎になってしまったこともありましたが……」
水
隆志さん「最近ハマっているのは、いろいろな場所のボトルウォーターを飲み比べること。お客さんがお土産で持ってきてくれることもあり、家には200種類くらいあります。だんだんとコーヒーに合うものもわかってきて、個人的におすすめなのは立山の水。お店でもオリジナルのボトルで販売しています」
これからのディモンシュ
隆志さん「時代やその時の気分に合わせて、お店の在り方は日々変化していますが、初心は変わっていないし、どんどん研ぎ澄まされている感じがする。自分の好きなものを信じて、形にし続けたいです」
千佳さん「忙しいけれどユーモアを忘れずに、これからも楽しく過ごしたいですね!」