Visit

知られざる市場は釜山に。港町のパワーみなぎるローカル市場を練り歩く

ソウルに次いで人口の多い釜山。見どころは数あれど、その魅力をダイレクトに感じたいならローカルな市場へ。海と山、川の恵みを味わえる市場グルメはもちろん、おおらかでパワフルな釜山の人と暮らしに出会えるはず。

photo: Kiyoko Eto / text: Yuriko Kobayashi / coordination: Shinhae Song (TANO International)

クッパとククス、2大伝統グルメが伝える市場の歴史

亀浦市場は川の市場だ。釜山北部、洛東江が流れる北区は朝鮮王朝時代から水上交通が発達し、亀浦はその中心地だった。周辺の町から海や川の水産物や野菜、雑貨、反物、肉などが集まり、次第に市場が形成されるようになった。迷路のように路地が入り組む市場には毎月3と8がつく五日市の日にはより多くの露店が立ち、押し合いへし合いして狭い路地を歩くほどの賑わいだ。

「亀浦市場に来たらクッパを食べなきゃね」とキムチ屋のアジメが言う。かつて市場で働く人々を労うために大店(おおだな)の主人がクッパを振る舞う習慣があったことから今でも市場の東側には「クッパ横丁」があり、豚を使ったデジクッパ、煮込んだ牛頭肉を細かく刻んで入れたソモリクッパ、モツ入りのネジャンクッパなど様々な味を楽しめる。白濁したスープは見た目よりさっぱりしていて、肉の臭みとは無縁。「豚も牛も余分な脂を取っているからだよ」とアジメ。丁寧に処理した肉を店先の大鍋で煮込む様子は亀浦市場の象徴だ。

もう一つ忘れてはいけないのがククス。亀浦には海と川が出合う塩気を含んだ風が吹く。その風にさらして作ったククスは味が良いとして古くからこのあたりでは製麺が行われてきた。市場の専門店で食べたククスは麺のツルツル感、小麦の風味が際立ち、海が近いせいか、だしもソウルで食べるより香り高い。亀浦市場の2大グルメは、今も続く作り手たちの丁寧な仕事を伝えていた。

言葉の壁を超えて暮らしを知る、釜山の市場が持つ魅力

映画『国際市場で逢いましょう』の舞台となった国際市場は釜山を代表する市場。台所道具や衣類など日用品を扱う店が並び、若者に人気の古着屋なども増えつつある。ステンレス食器や保存容器などが手頃な価格で手に入り、普段着の生活道具が欲しい人にはうってつけだ。

道具屋の主人に好きな食堂を聞くと、隣接する富平(プピョン)カントン市場の定食屋を教えてくれた。富平カントン市場は韓国初の公設市場で、昔ながらの風情が残る。定食屋に入ると、焼き魚とおかず、テンジャンチゲがほぼ自動的に出てきた。トゥッペギ(チゲ用鍋)、ステンレスのコップや箸、日常の風景に溶け込んだ生活道具を見ていると、国際市場に戻って買い物をしたくなってしまった。

市場の路地
市場の路地で方向感覚を失ったら釜山タワーを目印に。

釜山北部にある東莱市場は下町の小さな市場。場外の路地には、ゴマ油や餅などが並び、「おかずの市場」と呼ばれる。1階の食堂街ではアジメたちが手作りの惣菜を並べ、好きなものを自分で取って食べるスタイルが目立つ。「ご飯におかずを全部のせて、コチュジャンと混ぜて食べるんだよ、ビビンバみたいにね」と隣に座った人が身ぶりで教えてくれた。当たり前かもしれないが、釜山の市場で韓国語以外の言葉が通じたことはなかった。簡単な言葉でも「おいしい」「食べたい」「知りたい」という気持ちを心から伝えれば、おおらかに迎え、もてなしてくれる。「市場は町の顔」といわれるが、だとしたら釜山とはまさに愛とパワーに満ちた、懐深い町だった。

知られざる市場は釜山に。朝はフグ、夜はヌタウナギ……海辺の街ならではの味を体験!