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ブルータス時計ブランド学 Vol.69〈クレドール〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第69回は〈クレドール〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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品質と美を求める、国産ドレスウォッチの最高峰


ブランド名は、フランス語で“黄金の頂”の意味である“CRÊTE D'OR”に由来する。〈クレドール〉は1974年、セイコーの貴金属を素材とした「特選腕時計」をグループ化し、誕生した。

当時はクォーツムーブメントが主流になった頃。機械式よりもはるかに薄型化が容易なクォーツの利点を生かし、薄くエレガントなドレスウォッチをコレクションの主流としてきた。当初は、ゴールド製のみの展開だったが、1979年にSS製高級ライン〈セイコー アシエ〉を吸収したことで、素材のバリエーションを広げた。

その翌年、厚さわずか0.98mmで当時、世界一薄いクォーツムーブメントとなるCal.6720搭載モデルを発表。1982年には、当時2億2000万円のモデルを頂点とした宝飾時計の製造・販売をスタートさせた。どのモデルでも、針やインデックスに至るまですべてのパーツを手仕上げし、最高級の品質と美観を届けることが、〈クレドール〉の使命だ。

やがて時が流れ、機械式が再評価されはじた1993年、厚さわずか1.98mmという世界でも屈指の薄さを誇る手巻きムーブメントCal.6870搭載モデルがリリースされる。同キャリバーは、1996年以降、さまざまにスケルトナイズされ、工芸的な美しさをまとうようになっていく。

また1999年には、ゼンマイの力で発電した電力で稼働する水晶振動子とICとで制御するセイコー独自の機構・スプリングドライブも〈クレドール〉に用いられるようになる。それは2006年、毎正時に時刻を鐘の音色で知らせる複雑機構「ソヌリ」が備わる初の国産時計「NODE スプリングドライブ ソヌリ」誕生へと至る。

クォーツ、機械式、スプリングドライブそれぞれの利点を生かし、〈クレドール〉は国産ドレスウォッチの頂を常に目指し続ける。

【Signature:名作】GBLT999

透明感のある純白に、ブルーが映える

クレドールのGBLT999


透明感のある純白のダイヤルは、試行錯誤を重ねて生み出した磁器製である。色が褪せず、柔らかな印象を醸し出せる磁器ダイヤルは、割れやすいため現行モデルでの採用例は稀。セイコーは下地にセラミックを用い、磁器と同じ釉薬を施し約1200度で高温焼成することで、割れの心配を解消した。

さらにインデックスとロゴを手書きし、約800度で再焼成した後、磨き上げることで、つややかな透明感をかなえている。隅々まで手仕上げされた手巻きスプリングドライブを搭載。純白の上をブルーの秒針が、同機構ならではの滑るような動きで時を進める様子も美しい。

手巻き。Ptケース。7,865,000円。

【New:新作】ロコモティブ

天才デザイナーの作品が、念願のレギュラーモデルに

クレドールのロコモティブ

六角形のベゼルをビス留めしたフラットなケースが、ブレスレットと完璧な一体感を成す。そのブレスレットも、並列する六角形のリンクがつないでいる。スタイリッシュな外観は1979年にジェラルド・ジェンタによって生み出された。

この天才時計デザイナーの名作は、昨年ブランド50周年の記念モデルとして限定復刻され、たちまち完売。その人気を受け今年、待望のレギュラー化を果たした。限定モデルはオリジナルに忠実だったが、このレギュラーモデルではダイヤルを深みのあるグリーンとし、ダイヤルのパターンも連続する六角形に改めた。それでもなお、ジェンタらしさは健在である。

自動巻き。ブライトチタンケース。1,870,000円。

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