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ブルータス時計ブランド学 Vol.66〈スピークマリン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第66回は〈スピークマリン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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英国の感性と、スイス時計製造技術のマリアージュ

複雑機構に特化した高級ムーブメント会社、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)が幾人もの才能を育成し、輩出してきたことは、時計ファンの間ではよく知られている。英国ロンドン出身の時計師、ピーター・スピーク・マリンもその中の一人である。

同社で4年間トゥールビヨンやソヌリ(チャイミング機構)などの開発・製造に従事した後、2002年に自身の名を冠したブランド〈スピークマリン〉を設立。英国の古い懐中時計からインスピレーションを得た、シリンダー型の“ピカデリー・ケース”とスペード型の時針、という個性的かつ美しいスタイルと精緻な機構とで、創業間もない頃から熱心なコレクターに支持されてきた。

転機は、2012年に訪れる。彼の時計の素晴らしさに魅了されたフランス人起業家クリステル・ロスノブレによって、メゾンが買収されたのだ。CEOに就任した彼女は時計師のクリエーションを最大限に尊重しながら経営を続けてきたが、2017年にスピーク・マリン本人は、ブランドから去ることとなった。

以降の〈スピークマリン〉は、ピカデリー・ケースやスペード型針といったアイデンティティを堅持しながら、現代的な再解釈を加えたコレクションを展開。さらに2020年には、その5年前から出資を続けてきたムーブメント会社ル・セルクル・デ・オルロジェを傘下に収めたことで、自社製ムーブメントの製造体制が整った。

現在の〈スピークマリン〉は、4つのコレクションを展開し、その中には創業者が得意としていたトゥールビヨンやミニッツリピーターなどの複雑機構も含まれる。またスペード型針は今も堅持し、1時半位置にスモールセコンドを配するなど、外観でも一味違った個性を発揮する。

【Signature:名作】アカデミック ブラックタイ

創業者の意匠を継いだクラシカルモダンな装い

〈スピークマリン〉の時計


ストレートな力強いラグ、オーバーサイズのローマ数字、そしてスペード型の時針など、創業者が確立したスタイルを現在に継承。懐中時計を彷彿とさせる大型リューズも含め、全体の印象はクラシカルだが、1時半位置に配したスモールセコンドが現代的な遊び心を主張する。

マットブラックのダイヤルにローマ数字は同色で溶け込ませ、対して針はロジウムでクッキリと浮き立たせるコントラストの操作が巧み。ダイヤル外周の分・秒インデックスに配したオレンジ色が絶妙なアクセントになり、クラシカルかつスタイリッシュな装いとなった。

径42mm。自動巻き。チタンケース。2,974,400円。

【New:新作】リップルズ スケルトン

丸と四角とを融合した、スポーティシックなスケルトン

スピークマリンの新作時計

「リップルズ」は、2022年に登場したメゾン初のブレスレット統合型のコレクション。そのケースは四角と丸とが巧みに融合され、個性を主張する。さらに本作は、マイクロローター式の自動巻きを大胆にスケルトナイズ。パーツの大半をダイヤルに露わにした。

残したフレームは、直線と曲線を適度に組み合わせることでモダンな印象に。スペード型の時針と同じく創業者考案のウエストがくびれた分針とがブルーで、現在のメゾンのアイコンである1時半位置のスモールセコンドがソリッドなグレーでダイヤル上で存在を主張する。

径40.3mm。自動巻き。SSケース。5,969,700円。

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