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ブルータス時計ブランド学 Vol.65〈ジン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第65回は〈ジン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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タフネスを追求するツールウォッチの雄

正式な社名は「ジン スペツィアルウーレン」、日本語に訳せば「ジン特殊時計会社」。1961年の創設以来〈ジン〉は、視認性を最重要視したツールウォッチの製作で高い評価を受けてきた。

最初に手掛けたのは、アビエーション(航空)ウォッチ。何故なら創業者のヘルムート・ジンが、元ドイツ軍パイロットであったからだ。後に軍用と民生用それぞれのコクピットクロック市場にも進出。〈ジン〉の名は、プロパイロットの間で広く知られるようになっていく。

そして1994年、スイスの名門時計ブランドで経験を積んできたローター・シュミットが経営を引き継いだことで、大きな転機が訪れた。工学士であった彼は、独自テクノロジーの開発を命じたのだ。まず磁気を遮断するマグネチック・フィールド・プロテクションを生み出し、続いてケース内部の除湿機構Arドライテクノロジーが誕生。

その後もケース内に特殊オイルを封入するハイドロ・システムで5000m防水を実現してみせ、これを初採用したモデルはドイツの対テロ特殊部隊「GSG9」のダイバー部隊用公式時計のベースにもなった。ほかにもー66度でも粘性を維持し、+228度まで蒸発しない特殊オイルや、セラミックに匹敵する硬度の皮膜を形成するテギメントといった厳しい環境下でもタフに働く時計のための、名付けて“ジン・テクノロジー”の数々を実現してきた。

ドイツの警備部隊や軍、さまざまな冒険家、アスリートたちに〈ジン〉の時計が選ばれてきた。ドイツ製らしい質実剛健さが、〈ジン〉の身上。また2019年以降は、レッド・ドット・デザイン賞をはじめ、数々のデザイン・アワードに輝いてもいる。創業から変わらぬツールとしての純粋な機能美の追求が、まさに実を結んでいる。

【Signature:名作】103.B.AUTO

創業当初からの伝統を継ぐレトロな航空用クロノ

ジンの定番時計


コクピット計器として始まった「103」シリーズのベーシック機。最初期の〈ジン〉を彷彿とさせるレトロ顔のパイロットクロノグラフであり、1960年代初頭にドイツ空軍に採用された「155」から強化アクリル製の風防とブラックラッカー仕上げの両方向回転ベゼルを受け継ぐ。

強化アクリルはポリッシュで傷が簡単に消せて、万が一割れても砕け散らない、実践向けのミル・スペックである。スイスのコンセプト社製汎用ムーブメントを搭載。20気圧防水と〈ジン〉らしいタフさを併せ持ち、デイデイト装備で実用性が高く、コストパフォーマンスにも優れる。

径41mm。自動巻き。SSケース。610,500円。

【New:新作】613 St

タフさと機能美を追求した新ダイバーズクロノグラフ

ジンの新作時計

2025年夏発売予定の最新作。〈ジン〉独自の絶対に外れない特殊結合方式の逆回転防止ベゼルが備わるダイバーズクロノである。ほか8万A/mまでの高い磁気防護やArドライテクノロジーを装備。さらにプッシュボタンには、埃や湿気の侵入を防ぐD3システムを採用し、50気圧防水をかなえている。

ブラックダイヤルと強いコントラストを成す6時位置の大振りなインダイヤルは、潜水時の経過時間が確認できる60分積算計。視認性は高く、まさにツールウォッチとしての機能美。

径41mm。自動巻き。SSケース。予価715,000円。

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