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ブルータス時計ブランド学 Vol.62〈ジェラルド・チャールズ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第62回は〈ジェラルド・チャールズ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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偉大なる天才デザイナーの遺作を継承

時計界に数々の名作をもたらした天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタの本名は、ジェラルド・チャールズ・ジェンタである。1998年にさまざまな事情で〈ジェラルド・ジェンタ〉銘のブランドを手放すことになった彼は、その2年後に〈ジェラルド・チャールズ〉を設立し、再起を図った。

手を貸したのは、古くからの友人、フランコ・ジヴィアーニ。ジェンタは同社で3年間トップを勤めた後、ジヴィアーニ家に経営を託し、自身は2011年に死去するまでチーフデザイナーとしてクリエーションを続けた。

ジェンタ亡き後も、ジヴィアーニ家は〈ジェラルド・チャールズ〉の名を守った。現在展開するコレクション「マエストロ」は、ジェンタが2004年に創作した最後のケースデザインを受け継ぎ、一部再解釈もして、いくつものバリエーションを展開している。そのフォルムは、縦長八角形を基調としながら、下辺に柔らかな丸みを持たせることで、これ見よがしではない個性を醸し出しているのが、いかにもジェンタらしい。

彼の遺作はバロック建築、中でもローマの「サン・カルロ・アッレ・クワトロ・フォンターネ聖堂」からインスピレーションを得ており、その内壁を構成する六角形と八角形、そして十字架とを巧みに融合して生まれたのだという。

そして技術力に定評があるムーブメント会社、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ社(以下、ヴォーシェ社)と手を組むことで、スケルトンやウルトラシン(極薄)、クロノグラフ、さらには複雑機構のトゥールビヨンまでのラインナップを実現している。そんな〈ジェラルド・チャールズ〉は2024年、日本再上陸を果たした。時計界のピカソは、今もファンを魅了し続ける。

【Signature:名作】マエストロ 2.0 ウルトラシン

微笑みを浮かべるユニークな極薄ウォッチ

〈ジェラルド・チャールズ〉マエストロ 2.0 ウルトラシン

一目でそれと分かるケースデザインに、コレクターが付けた愛称は“スマイリー”。なるほどケース下辺の丸みは、微笑んでいるかのように見える。ジェンタらしい遊び心が利いたデザインを受け継ぎながら、ケース厚8.7mmという極薄に仕立て直したのが本作である。

あえてラバーストラップと組み合わせることで、スポーティな印象を併せ持たせた。防水性を高めるのが難しい複雑なケースフォルムでも、10気圧防水を実現。薄くスポーティで、かつ高防水。生前のジェンタがまさに好んだスタイルである。

縦41.7×横39mm。自動巻き。SSケース。3,003,000円。

【New:新作】マスターリンク

ジェンタらしさを受け継ぐ、初のブレスレットウォッチ

〈ジェラルド・チャールズ〉マスターリンク

ジェンタの遺作を、現在のクリエイティブ・ディレクター、オクタヴィオ・ガルシアが再解釈。メゾン初のブレスレットウォッチに仕立て上げた。ブレスレット統合型の、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチの始祖を生み出したのは、ジェンタであった。

テーパードしたブレスレット、超薄型ケースといった高級機とするためにジェンタが好んだ手法を、ガルシアは忠実に受け継いでいる。隙間がほぼないソリッドなブレスレットの造作や、ヘアラインとポリッシュとを組み合わせた外装仕上げも、ジェンタの遺志を継ぐ。

縦38×横38mm。自動巻き。SSケース。4,408,250円。

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