液体が時を示す、唯一無二の流体機械式時計
〈HYT〉は、他に類例がない時計ブランドである。なぜなら、プレキシガラス製のキャピラリー(毛管)内に閉じ込めた2色の特殊な液体がレトログラード機構の動きをなぞらえ、アワー表示をするという、唯一無二の“流体機械式時計”のみを展開しているからだ。
「絶えず流れる時間、それを流動性のある液体で表現できないか」という荒唐無稽なアイデアを実現するため、時計・医療・化学・物理学・宇宙工学などのスペシャリスト6名が集結。特別な機構の開発を得意とするクロノード社の力を借り、10年の歳月をかけてようやく完成した初号機「H1」で2012年、時計界デビューを果たした。
2色の液体は、それぞれベロー(ふいご)に封入され、テンプと脱進機で調速・制御されるカムを介して一方(色付き)がキャピラリー内に順次送り込まれ、アワーを示す仕組み。そして12時間を経ると、他方(多くは透明)が一気に管内を満たし、新たな12時間を刻み始める。
2013年には高級ムーブメント会社、オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)との協業による「H2」を発表。その後も、流体機械式ムーブメントはさまざまなバリエーションが展開されてきた。
そして2021年〈HYT〉は、創業者のヴィンセント・ペリアードが会長として復帰し、経営陣を刷新。TEC(テック)グループの設計者エリック・クードレイとインスリン注射器などを製造するPRECIFLEX(プレシフレックス)社と提携し、「腕時計の宇宙船」をコンセプトとした流体機械式コンプリケーションコレクションの開発に取り組んできた。その成果が、弱点だった温度と気圧の影響を克服した6つの特許技術。流体機械式時計は、より正確な時を示すよう、進化を果たした。
【Signature:名作】ハストロイド シルバーレッド
ダイヤルに全容を見せる、流体表示の心臓部
新生〈HYT〉による旗艦コレクションからの一本。展開するすべてが限定モデルであり、この“シルバーレッド”の製作数も、わずか15本である。フルオープンのダイヤルにはレッドと透明、2色の液体を出し入れする2つのベローの全容が覗く。
その内側に備わる流体と接触する金属層は特殊合金製で、NASAが開発した宇宙工学部品にも使われている素材だという。ダイヤル外周を取り巻くキャピラリー内を進む赤い液体が時を、針が分を指し、写真では10時20分を示している。時インデックスの背景のハニカムや大胆なケースのフォルムは、宇宙船がモチーフ。
径48mm。手巻き。チタンケース。16,830,000円。
【New:新作】T1 チタン シルバー
ブランド史上初のソリッドダイヤル
これまでの全モデルで2つのベローをオープンダイヤルに覗かせてきた〈HYT〉が、初めてダイヤルを閉じた。結果、キャピラリーが際立って、流体レトログラードの特殊性がより引き立った。ケースサイズも既存と比べ小振りになり、またソリッドダイヤルとも相まってコーディネイトの幅が広がり、日常使いがしやすい。
ファセットカットで立体的な八角形を織り成したケースは、最新の人間工学に基づいて設計され、フィット感が良好。全体をシルバーカラーでまとめ、流体レトログラードをブルーとした色の組み合わせがスタイリッシュだ。
径45.3mm。手巻き。チタンケース。10,780,000円。