Wear

Wear

着る

ブルータス時計ブランド学 Vol.57〈ブローバ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第57回は〈ブローバ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

連載一覧へ

アポロ計画にも参画した、米国の国民的時計ブランド

〈ブローバ〉の歴史は1875年、チェコスロバキア(当時)からニューヨークに移住したジョセフ・ブローバが、マンハッタンに開いた小さな宝飾時計店に始まる。1911年にはクロックと腕時計製作に着手し、時計メーカーへ転身。当時アメリカでも時計製造は盛んだったが、スイス・ビエンヌに時計製造工場を設立して高品質なモデルを提供することで信頼を勝ち得てきた。

初期のヒット作は1927年に誕生。大西洋単独無着陸飛行を成し遂げたチャールズ・A・リンドバーグの偉業を讃えるトノー型時計「ローン・イーグル」だ。またラジオの時報コマーシャルやテレビコマーシャルを時計界で先駆けて実施するなど、マーケティング戦略にも長けていた。そして第2次世界大戦時にはアメリカ軍に多くの時計を提供し、国との連携も強固なものとした。

1960年には、時計史に燦然と輝く傑作が誕生する。トランジスタと電磁コイルによって制御・駆動される音叉の振動を積算し、針を動かす世界初の音叉時計「アキュトロン」である。月差1分以内という高精度は当時群を抜き、NASAも注目。アポロ11号による人類初の月面着陸の計時装置に「アキュトロン」のムーブメントが採用され、その装置は静かの海に設置された。

1970年には〈シチズン〉と提携し、「アキュトロン」の日本での製造・販売をスタート。また2000年にはニューヨーク市長によって10月4日が「ブローバの日」と定められるほど、米国では絶大な人気を今日まで堅持し続けてきた。

そんな〈ブローバ〉は2008年、シチズンウオッチグループ傘下として新たな時代の扉を開いた。これにより機械式のラインナップが充実。高品質かつ圧倒的にコストパフォーマンスが高いモデルの数々が、時計ファンを魅了する。

【Signature:名作】ルナ パイロット クロノグラフ 98K112

月面探査に同行した第2のムーンウォッチ

ルナ パイロット クロノグラフ 98K112


過去のタイムピースに範を採る「アーカイブスシリーズ」からの一本。幅広のラグがケースサイドと滑らかな曲線でつながるフォルムは、1960年代にあったクロノグラフRef.88510/01からの引用である。外周にタキメーターが備わるダイヤルデザインや6時位置のロゴの書体も当時と同じだ。

モデル名にあるルナとは、月の意。「ルナ パイロット」と名付けたのは、オリジナルがアポロ15号(1971年)のデイビッド・スコット船長が愛用し、月面探査時に身に着けていたから。人類の偉業の時を刻んだクロノグラフをなぞらえた外装には、一般的なクォーツの8倍にあたる26万2000Hzの高周波で月差±5秒という超高精度を実現したCal.NP20が潜む。

径43.5mm。クォーツ。SSケース。カーフレザーNATOストラップ付属。99,000円

【New:新作】クラシック サーベイヤー 96A310

機械式の魅力が堪能できる、コスパ最強のスケルトン

クラシック サーベイヤー 96A310

2024年11月に発売されたばかりの、まさに最新作である。大人な雰囲気を醸し出す、わずかにエッジを利かせたケースに、自動巻きのスケルトンムーブメントを収めた。オープンワークの間からテンプや歯車の動きが垣間見えるのは、機械式ならではの魅力。

搭載するムーブメントは、シチズンウォッチグループ傘下の〈ミヨタ〉製だが、ビス留めしたテンプのブリッジなど〈ブローバ〉専用の設えになっている。12時位置には傑作〈アキュトロン〉を象徴する音叉のロゴを掲げ、楔形インデックスとの組み合わせでシャープな印象に装った。高級なイメージがあるスケルトンウォッチも、〈ブローバ〉は身近な存在にする。

径41mm。自動巻き。SSケース。56,100円。

連載一覧へ