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ブルータス時計ブランド学 Vol.56〈エドックス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第56回は〈エドックス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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防水技術を研鑽し、タフネスを追求する

ブランド創設のきっかけは、創業者クリスチャン・リュフリ=フルーリーが、自身でデザインも手掛け、妻ポーリーンの25歳の誕生日にプレゼントした懐中時計だった。その美しさに感銘を受けた妻は、ブランドを立ち上げるべきだとすすめ、1884年、古代ギリシャ語で“時間”を意味する〈エドックス〉が誕生した。1900年には、現在に続く砂時計のロゴが創案された。

1920年代に入ると、いち早く腕時計製作に着手。事業は順調に拡大し、1955年には500人もの時計職人を雇い入れ、スイスで最も近代的と評価された巨大な工場を構えるまでに至った。そして1961年、リューズ内に2つガスケット(止水材)が備わる「ダブル・Oリング」で特許取得し、当時としては画期的な200m防水を実現した「デルフィン」をリリースする。

以降〈エドックス〉は、“THE WATER CHAMPION”をスローガンに掲げ、防水時計ブランドとしての地位を確立していく。65年に誕生した「ハイドロサブ」で、500m防水を達成。またメカニズムにおいても、世界の主要50都市の時刻を同時表示する「ジオスコープ」(70年)や1.4mm厚というカレンダー付きでは世界最薄ムーブメントを98年に開発するなど、技術力を発揮してきた。

また長く研鑽してきた防水技術は、2007年以降「海のF1」と称されるパワーボートレースの最高峰「Class-1」や「世界ラリー選手権」(WRC)などの公式タイムキーパーとして実力発揮。それらの世界観を投影したコレクションが次々とヒットし、日本での知名度も一気に高まった。

現行コレクションは、公式計時から生まれたモダンなスポーツウォッチと歴史タイムピースから着想を得たモデルが主流。いずれも優れた防水性とデザイン性でファンを獲得している。

【Signature:名作】クロノオフショア1 クロノグラフ オートマティック

パワーボートから着想を得た、タフなダイバーズクロノ

〈エドックス〉クロノオフショア1 クロノグラフ オートマティック

2008~14年に公式計時を担当したパワーボートレース「Class-1」から着想を得て生まれた「クラスワン」をルーツとする、現行コレクションからの一本。カーボン製ダイヤルと1だけをアラビア数字としたインデックスを前身モデルから継承する。

50気圧の高防水に加え、セラミック製の逆回転防止ベゼルとヘリウムガス排出バルブを装備。タフなダイバーズクロノグラフは、プロの潜水士からの信頼も厚い。このブルーカーボンダイヤルとゴールドPVDケースとの組み合わせは、日本限定。ラグジュアリーな雰囲気を湛えると同時にデイデイトが備わり、実用性にも秀でる。

径45mm。自動巻き。SSケース。495,000円。

【New:新作】クロノオフショア1 ベゼルロック クロノグラフ オートマティック

水中でのベゼルの誤操作を、限りなくゼロに

〈エドックス〉クロノオフショア1 クロノグラフ オートマティック ベゼルロック

上のモデルと同じく、ヘリウムガス排出バルブが備わる50気圧防水ダイバーズクロノに、ブランド初のベゼルロック機構が装備された。ケースサイド9時位置のレバーがそれで、6時位置側にスライドしないとベゼル操作ができない仕組みに。

レバーは海中でもっとも見やすいオレンジとし、タフな外装の絶妙なアクセントにもなっている。潜水中のベゼル誤操作を限りなくゼロにする新機構搭載を、海洋環境保護を目指す極地探検プロジェクト「アナンタ・エクスペディション 2」と共同開発し、標準装備に採用された。

径45mm。自動巻き。SSケース。638,000円。

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