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ブルータス時計ブランド学 Vol.55〈エベラール〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第55回は〈エベラール〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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クロノグラフの歴史を塗り替えてきた老舗

創業者ジョルジュ・ルシアン・エベラールは、スイス時計産業の黎明期から製造に携わってきた名家に生まれ、1887年に自身の工房を開設した。その翌年には当時、作り手が少なかったクロノグラフ懐中時計の開発に成功。やがて同機構におけるトップブランドとして、名を馳せるようになった。20世紀に入り、腕時計の時代が訪れてからも、いち早くワンプッシュ式の腕時計クロノグラフを世に送り出してみせた。

その技術と開発精神は息子たちにも受け継がれ、1935年にはストップボタンを独立させたダブルプッシャークロノグラフを他社に先駆けて開発し、38年には12時間積算計を発明した。こうした実績が認められ、イタリア海軍が将校時計として採用。同国で〈エベラール〉は、オフィサーズ時計の作り手として人気を博すこととなる。さらに同じころ、イタリア人を熱狂させた伝説のレーサーにして国民的スター、タツィオ・ヌヴォラーリの名を冠したクロノグラフを次々と発表したことで、その人気を不動のものとした。

40年代にはエレガントなクロノグラフコレクション「エクストラ・フォルト」がヒット。59年には同社初のダイバーズウォッチ「スカフォグラフ」が、61年には耐磁時計「サンエンティグラフ」が誕生する。

これらのコレクションが今日まで続いているのは、68年までは創業者一族、以降はイタリアの代理店だったモンティ家による家族経営を堅持してきたから。ゆえに自由な発想を邪魔されることなく、43mmもの大型ケースを特徴とする「トラベルセトロ」(1996年)や、横一列に4つのインダイヤルが居並ぶアイコニックな「クロノ4」(2001年)のような、超個性派モデルを生み出してこられた。

2021年、日本に本格上陸。老舗にして最注目の新星である。

【Signature:名作】クロノ4 21-42

一度見たら忘れられない、4連クロノグラフ

エベラール クロノ4 21-42


4つのインダイヤルを横一列に並べた唯一無二のスタイルは、2001年に初登場した際、時計関係者の度肝を抜いた。極めて奇抜ではあるが、全表示が一度に確認できる優れた視認性を兼ね備えている。4つのインダイヤルは左から30分積算計、12時間積算計、24時間表示、スモールセコンド。

この配置は、ベースムーブメントにクロノグラフモジュールを重ね、さらにその上に各インダイヤル表示のためのモジュールを載せた3層構造によって実現された。クル・ド・パリ装飾を施したダイヤルがエレガント。ブラックベゼルはセラミック製で、タキメーターを刻みレーシィな雰囲気を加味した。

径42mm。自動巻き。SSケース。ラバーストラップ1,398,100円、レザーストラップ1,329,900円。

【New:新作】クロノグラフ 1887 オートマティック

創業年を冠した、クラシカルクロノグラフ

エベラール 1887

リセットボタンがリューズ同軸となった外観は、1919年に完成させたワンプッシュクロノグラフを彷彿とさせる。中央に螺旋状の青いパルスメーターが、外周にテレメーターが備わるダイヤルデザインは、35年に誕生したダブルプッシャー・クロノグラフに範を採る。

ブランドの歴史を受け継ぐ外観は、針の造形も含め、実にクラシカルな雰囲気である。ムーブメント会社「AMT」製Cal.5100を自社でリューズ同軸リセットボタンに改良。コラムホイール式で、フライバック機構も備わる、高性能な高級機である。

径41.5mm。自動巻き。SSケース。1,475,100円

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