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ブルータス時計ブランド学 Vol.49〈グラスヒュッテ・オリジナル〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第49回は〈グラスヒュッテ・オリジナル〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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伝統を継承し続けるドイツの時計マイスター

ドイツ北東部。チェコとの国境線を成すエルツ山地の谷間に位置する町グラスヒュッテは、19世紀半ばにもたらされた時計産業で栄えてきた。しかし第二次世界大戦後の東西分裂により、同地の時計メーカーや関連企業は、すべてグラスヒュッテ国営時計製造会社(GUB)に統合されてしまった。

ドイツが再統一を果たした1990年、GUBは民営化される。1994年より〈グラスヒュッテ・オリジナル〉をブランド名に掲げ、再出発を図った。その名は、この地で途切れることなく時計製造の歴史を紡いできた誇りの表れであり、グラスヒュッテに最初の時計工房が開かれた1845年を創業年とする。

再出発の当初から、パーツを裏蓋側で大きく覆う4分の3プレートやハンドエングレービングを施したテンプのブリッジ、スワンネック緩急針といった、ザクセン様式に則った美しい自社製ムーブメントを開発。2000年にスウォッチ グループ傘下となったことで設備投資もあり、より複雑で精巧なメカニズムで時計ファンを魅了してきた。

19世紀当時の懐中時計に範を取るクラシカルウォッチを得意とする一方、GUB時代のやや荒々しい造作とレトロなデザインのモデルでも人気を博す。そのケースやダイヤルも、自社製造できる設備を有し、全時計部品の実に95%を内製しているという。高い内製率は高品質の証し。全モデルに自社製の機械式ムーブメントを搭載するのも、時計マイスターの誇りだ。

2002年には本社敷地内に時計学校を再建し、市の協賛を得て2008年に「ドイツ時計ミュージアム」を開設するなど、時計産業の再興にも尽力。〈グラスヒュッテ・オリジナル〉は、ドイツ製高級時計の灯を、これからも守り続ける。

【Signature:名作】SeaQ クロノグラフ

GUB時代の遺産を受け継ぐダイバーズ

シーキュー クロノグラフ


2019年に誕生したブランド初のダイバーズウォッチ「SeaQ」(シーキュー)に、新たにクロノグラフが追加された。ベースとなるデザインは、1969年にGUBが開発したダイバーズウォッチを規範とする。ケースに施す同心円状のヘアライン仕上げも、当時と同じ。

巨大なインデックスと針の意匠にもあるレトロ感は、2カウンターのクロノグラフとすることで、より強調された。6時位置には、ブランドを象徴する大型日付表示パノラマデイトを配することで、モダンな雰囲気を加味。DIN(ドイツ工業規格)のダイバーズウォッチ規格に準拠した、本格派である。

径43.2mm、自動巻き、SSケース。2,123,000円。

【New:新作】セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズ

クラシカルモダンなアシメトリックデザイン

セネタ・エクセレンス・パノラマデイト・ムーンフェイズ

「セネタ」は、ブランドの中で最も古典的な顔を持つコレクション。このモデルも、ローマ数字、その外側のレイルウェイ、スペード型針などクラシカルなディテールを継承しながら、パノラマデイトとムーンフェイズのイレギュラーな斜めの配置で、新味を発揮した。

新色のグレーダイヤルは、ベースの金属盤に銀粉と塩、水を混ぜたペーストを手作業で何度もブラシ掛けして艶を出し、その上からグレーのガルバニック処理(溶融メッキ)した本物のグレイン仕上げ。ムーンフェイズは122年調整不要と、機構にも秀でる。

径40mm、自動巻き、SSケース。1,716,000円。

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