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ブルータス時計ブランド学 Vol.40 〈ジラール・ペルゴ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第40回は〈ジラール・ペルゴ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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美しき複雑機構を有する名門

19世紀当時、トゥールビヨンを製作できる技術を持つ時計師は、十指にも満たなかった。そのごく限られた中の一人が、〈ジラール・ペルゴ〉の創業者コンスタン・ジラールである。彼は、トゥールビヨン・ムーブメントのパーツを並列する3つのブリッジで支える構造を考案。複雑機構に、独創的な美観を与えた。この「スリー・ゴールド ブリッジ トゥールビヨン」は、1889年のパリ万博で金賞に輝き、〈ジラール・ペルゴ〉は、世界中に知られる存在となった。

1906年には、精巧かつ美しい時計で王侯・貴族を魅了してきた時計師ジャン=フランソワ・ポッドの工房を起源とするポット社を買収。当時のスイス時計界を代表する2つの技術力と創造性が融合し、それは後世に受け継がれていく。

伝統的な時計製作技術を受け継ぎながら革新を続け、新たな美を創出してきたからこそ〈ジラール・ペルゴ〉は、名門と呼ばれるようになった。1966年にはテンプが毎秒10振動するハイビートムーブメントをいち早く実現し、高精度技術に革命を起こした。スイス製初のクォーツムーブメントも、1970年に自社開発。その翌年に採用した水晶振動子の32,768Hz(1秒間に 2の15乗回振動)という振動数は、今も時計界の標準となっている。

また機械式においても、創業者が製作した「スリー・ゴールド ブリッジ トゥールビヨン」の懐中時計を1982年に再現し、その9年後には同じ機構と構造を腕時計に搭載してみせた。現在の〈ジラール・ペルゴ〉には、シンプルな3針自動巻きからトゥールビヨン、ミニッツリピーターといった複雑機構まで、多彩な自社製機械式ムーブメントが取り揃う。そのどれもが、伝統的な手仕上げによる美観を湛え、高級時計市場に確固たる地位を築いている。

【Signature:名作】ロレアート 42MM

'70年代スタイルを継承し、復活を遂げたアイコン

ロレアート 42MM ジラール・ペルゴ定番

1975年に自社製クォーツ搭載で誕生し、後に機械式に置換されて2000年代初頭まで続いたラグジュアリースポーツウォッチが、2017年に復活。円と八角形とが重なるステップベゼルや、ダイヤルのクル・ド・パリ装飾、12時の“GP”インデックスといった外観を特徴付けるディテールは、初代からの継承である。

薄型の自社製自動巻きを搭載。結果ケース厚も抑えられ、エレガントな印象を高めている。100mの防水性能は、日常使いでは実に心強い。スポーティかつエレガントで、カジュアルにもスーツにも似合い、しかも頑強。デイリーウォッチとして最良の一本。

径42mm。機械式手巻き。SSケース。1,881,000円。

【New:新作】ネオ コンスタント エスケープメント

先進技術を駆使した独自の高精度機構

〈ジラール・ペルゴ〉ネオ コンスタント エスケープメント

ダイヤル下部の開口部に見える紫と青のパーツはシリコン製。ゼンマイからの動力で中央を横に貫く細いブレードをたわませ、それが元に戻る際の一定(コンスタント)のトルクでテンプを動かすことで、超高精度をかなえる。

メゾンの優れた革新性を象徴する、エネルギーを操る一大発明は、2013年に誕生。この機構を搭載する最新作は、ムーブメントの主要な歯車をダイヤルに見せる新設計とし、より大胆な装いとなった。

径45mm。自動巻き。チタンケース。13,101,000円。

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