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ブルータス時計ブランド学 Vol.9 〈パネライ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第9回は、イタリア・フィレンツェの名門、〈パネライ〉。 

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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軍用の世界から民間へ

〈パネライ〉の腕時計の存在は、半世紀以上秘密のベールに包まれていた。イタリア海軍向けのミッションウォッチだったからだ。開発は1935年にスタートし、1938年に海軍に納品されたとの記録が残る。このとき、現代に受け継ぐクッション型ケースと3・6・9・12をアラビア数字としたダイヤルデザインが生まれた。今の「ラジオミール」コレクションは、このファーストモデルが規範。そして1950年代に現行の「ルミノール」コレクションを特徴付けるリューズプロテクターが誕生する。

これら一目で〈パネライ〉だと分かるディテールは、海中でのミッションをサポートするために考案された。クッション型ケースは頑強さをもたらすため、4方向のアラビア数字は視認性を、リューズプロテクターは防水性を高めるためだ。

やがて1990年代に入り東西冷戦が終結すると、〈パネライ〉は軍用から民間向けへと転じる。1993年にイタリア市場に向けたモデルを発表し、1997年にヴァンドーム グループ(現リシュモン グループ)傘下となったことで世界デビューを果たす。機能的かつ個性的で超大型の〈パネライ〉ウォッチは、当時の時計市場に衝撃を与え、後のデカ厚(大きく厚い)時計ブームを牽引した。

また2002年にスイス・ヌーシャテルに工房を開設し、自社製ムーブメントの開発に着手。2005年以降、実に多くのムーブメントを生み出してきた。2014年にはヌーシャテルの丘陵地に広大な新ファクトリーが完成。開発・生産力が格段に増強された。ここでは高度に自動化されたマシンがムーブメントへの注油や穴石のセッティングを行っている一方、「トゥールビヨン」や「ミニッツリピーター」などの複雑機構は一人の技術者が一つのムーブメントを最初から最後まで組み上げる高級時計の伝統も受け継いでいる。

〈パネライ〉は、機械式だけを製作する、稀有な存在。ミッションウォッチ時代のデザインに倣うことを堅持してきたアイコニックな外観には、そのルーツにふさわしい頑強な設計の高性能な自社製ムーブメントが潜む。

【Signature: 名作】ルミノール 47MM PAM00372

大きくて厚く、シンプル。これぞ〈パネライ〉

ブルータス時計ブランド学 Vol.9 パネライ

超大型のクッション型ケースや2針のシンプルなダイヤルは、1950年代に生まれた初代「ルミノール」の忠実な再現である。畜光塗料を載せたディスクに、インデックスをくり抜いたダイヤルを重ねたサンドイッチ構造も、当時と同じ。こうすることでより強力な発光が得られ、また畜光塗料が欠け落ちることを防いだのだ。これもミッションウォッチらしい工夫だ。

特徴的なリューズプロテクターは、上部の爪を起こし、解除する仕組み。3日間駆動と実用性に秀でる自社製手巻きムーブメントCal.P.3000を搭載する。

径47mm。手巻き。SSケース。1,204,500円。

【New: 新作】サブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™ ヴェルデ スメラルド PAM01287

SDGsに取り組む〈パネライの、解答の一つ

ブルータス時計ブランド学 Vol.9 パネライ

1956年にエジプト海軍に納品したミッションウォッチから潜水時間を計るための逆回転防止ベゼルを引用した、ダイバーズウォッチコレクションの2022年新作。既存のSSケースの42mmと47mmの間を埋める44(イタリア語でクアランタクアトロ)mmが登場した。

これはその中の一つで、ケースには総重量の58.4%がリサイクルベースの素材から成るサスティナブルなステンレススティール、eスティール™を採用する。ストラップ素材もリサイクルPET由来とし、地球環境に配慮した。逆回転防止ベゼルのリングは、コレクション初のポリッシュセラミック製。ダイヤルは上下に色をグラデーションさせ、スタイリッシュに装った。

径44mm。自動巻き。eスティールケース。1,433,300円。

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