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ブルータス時計ブランド学 Vol.5 〈ブレゲ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、2022年に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第5回は、時計の世界に数々の革新を生み出した、〈ブレゲ 

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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今に受け継がれる、
天才時計師の名前

〈ブレゲ〉の歴史は1775年。フランス・パリのシテ島に開設された工房に始まる。創業者は、後に「時計の進化を2世紀進めた」と称賛されるアブラアン-ルイ・ブレゲ。スイス・ヌーシャテルに生まれ、15歳でパリに渡って著名な時計師の下で技術を学んだ彼は、28歳で独立後、優れた才気を発揮していく。1780年には初の実用的自動巻き機構ペルペチュエルで自身初の特許を取得。その3年後には先端近くにリングを有するスリムな針と流麗なアラビア数字をデザインした。これらは現在、多くの他社も「ブレゲ針」、「ブレゲ数字」の名で用いている。

初代〈ブレゲ〉は視認性という時計の機能美をいち早く考察した人物でもあった。細い針はダイヤルの視認を邪魔せず、先端のリングで針位置が確認しやすい。金属製ダイヤルに凹凸模様を施す「ギヨシェ彫り」を時計に初めて応用したのも初代ブレゲで、彼はこれを単なる装飾ではなく、光の反射を抑え、異なる模様で機能を視覚的に切り分けるために用いた。

機械的な才能に加え、デザイン力にも秀でていたがゆえに、彼は稀代の天才時計師と謳われる。時刻を音で知らせるリピーター機構のリング状ゴング、テンプの耐衝撃機構「パラシュート」、時計への重力の悪影響を平均化する「トゥールビヨン」など初代ブレゲによる発明は、枚挙にいとまがない。現代のブレゲは、偉大なる創業者が発明した機構と意匠、装飾を大切に受け継ぎ、進化させている。

1976年にスイス・ジュウ渓谷のロリエント村に開設された工房では最新の工作機械が稼働する一方、19世紀に作られたマシンも整備。初代ブレゲが製作した懐中時計を、当時と同じ技術で修復するためだ。長く作り手が途絶えていたギヨシェ彫りの手動彫刻機を自社製造し、技術者を育成しているのは〈ブレゲ〉だけ。そしてすべてのパーツとケースには、伝統的な手仕上げを行き渡らせている。

さらにムーブメントにシリコン製パーツを積極的に導入。テンプの軸の両端を強力な磁石で支え、耐衝撃性を向上させると同時に重力の悪影響を解消する「マグネティック・ピボット」のような、極めて独創的な機構も持つ。革新性もまた初代から受け継ぐDNA。ブレゲの工房には、創業以来培ってきたすべての技術が集約され、さらなる進化に日々挑んでいる。

【Signature: 名作】クラシック 7147

3種のギヨシェ彫りを使い分けたダイヤルの機能美

ブレゲ 名作 クラシック 7147

5時30分位置にオフセットされたスモールセコンドに、名門の遊び心が感じられる定番にして傑作。初代から受け継ぐ〈ブレゲ〉針と秒針はスティール製で、成型後に手作業で熱し、鮮やかなブルーに発色させている。

ダイヤル中央はピラミッド型が連なるクル・ド・パリ、スモールセコンドにはダミエの各ギヨシェ彫りが華やぐ。さらにダイヤル外周には分ドットインデックスをリズレと呼ばれるギヨシェ彫りでサンドして、ローマ数字の時インデックスと明確に切り分けた。機能美をもたらす装飾は、まさに〈ブレゲ〉らしい。

径40mm。自動巻き。18KRGケース。2,585,000円。

【New: 新作】マリーン オーラ・ムンディ 5557

2つの時間を瞬時に行き来するトラベルウォッチ

ブレゲ 新作時計マリーン オーラ・ムンディ 5557

6時位置の窓に、世界24のタイムゾーンを象徴する都市名を表示。8時位置のボタンを回すと順に都市が切り替わり、時分針と日付、4時位置の昼夜表示がその現地時間を示す。そしてボタンを一度押せばホームタイムに全表示が切り替わり、再び押すと直前に示していた都市の現在時刻にすべてが戻る。

ボタンを押すたびに2つの時間を行き来する、実に巧妙なトラベルウォッチはメゾンの独創性が光る。ダイヤルは波模様をギヨシェ彫りしたブルーのベースに、世界地図と子午線とをメタライズしたサファイアクリスタルを重ね、奥行き感のある美を構築した。

径43.9mm。自動巻き。18KWGケース。8,921,000円。

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