入江悠監督と劇伴作曲家・海田庄吾による映画音楽の聴き方。
入江悠
僕は『メッセージ』(2016年)でヨハン・ヨハンソンが書いた劇伴が好きでよく聴いてます。旋律がストーリーやテーマを物語っていて、音楽が映画作品の一部として欠かせない作品になっていました。
海田庄吾
その少し前まで、クリフ・マルティネスが手がけた『ドライブ』(11年)などのように、シンセサイザーや独自のサウンドを多用したアンビエントな作品が増え、メロディ要素の減った時期がありました。その後、ソフトウェアが進化しすぎ、誰がやっても簡単に上質な音色が出せるようになった結果、最近では生演奏やメロディへ回帰した作品が増えたと思う。
多分『メッセージ』は、完成直前の映像を観ながら劇伴を書くシンクロ・スコアという方式を採り、メロディと主題のアンビエント要素をうまく融合させ、ストーリーや演技との調和を取っていると思う。
入江
僕が最近好きになった映画を振り返ると、劇伴が大きな役割を果たしている作品が多い。『WAVES』は古典的な犯罪ものなんだけど、映像のトーンとアンビエント要素を含んだピアノの旋律が合わさり、現代的な作品になっているんです。
海田
劇伴を担当したトレント・レズナーは、一時期はアンビエント一辺倒な印象でしたが、メロディ回帰したんですよね。
入江
そうですね。メロディアスという意味では、ジョン・デブニーのオーケストラが光る『ビーチ・バム』が良かった。ハーモニー・コリン節の酒飲み映画かと思いきや、音楽で哀愁を醸し出していて。
海田
明るい映画に、延々アッパーな劇伴を当てるとか、物語とリンクしすぎる作品を観ているとシラけてきますから。
入江
でも、第二次世界大戦後を舞台にした『COLD WAR あの歌、2つの心』や、1950年代のNYを舞台に禁断の恋を描いた『キャロル』のように、時代設定に合わせた映画音楽も好きなんですよ。特に『キャロル』はオープニングのメロディから破局の悲しい雰囲気が漂っていて。
海田
温もりがたまりませんよね。ストーリーをにおわせるロマンティックなメロディは、エンニオ・モリコーネに近いと感じました。特色としては、ピアノの音の処理にすごくこだわっていて、驚きましたよ。まず演奏自体をレコーディングしてから、残響音だけ録り直していると思います。
入江
よくわかりますね!1度観ただけで判断できるものなんですか?
海田
確認を含めて2回観ます。自分が劇伴を担当する時、シーンに対しての音色や音質、音楽と演技の距離が、ベストになる状態を選びます。だから、ほかの作品が気になって何度か観ているうちに、音楽的な伏線もわかるんです。例えば、『ミッドサマー』でも、冒頭の凄惨なシーンで使われたバイオリンのフレーズが、実は狂気の祝祭描写でも配置されているんですよ。
入江
そんな伏線があったとは!この映画のダンスシーンでかかる歌がサントラ盤に入っていないのが残念なんですよね。
海田
劇中で役者が歌っている曲は、権利の問題もありますから、盤に収録することが難しいのかもしれませんね。