大学の講義の魅力は
身につく知識量ではなく、
視点や切り口の面白さにある
「今回初めて大学の公式YouTubeを一気見しました。改めて気がついたのは、大学の講義の魅力は、身につく知識量ではなく、視点や切り口の面白さにあるということ。知の自由な“生かし方”がリベラルアーツではないでしょうか」と大島育宙さん。
中でも印象に残ったのは“アメリカ史”。
「身近なテーマだけど、独特な文脈で、まさに大学の学びだと感じました」
現役の東京大学法科大学院生という立場から、リアルの授業とYouTube動画の違いも発見。
「実は“イスラム史”の池内恵教授の講義を受けたことがあるんです。素晴らしい内容だけど、一度で消化するにはかなり難解で。でも動画なら繰り返し観られる。戻れることを前提にすれば気楽に学べるんです。それに、動画では先生と学生の関係が一方通行になるイメージがありますが、“震災復興と哲学”の対話など、その場にいるような臨場感があって驚きました」
動画を観る中で感じた意外な利点も教えてくれた。
「気になる科目をお試し受講するのにいいし、なにより話上手で魅力的な教授と出会えるのが嬉しい。先生を入口にして著書を調べる勉強法も効率的ですね」
検索のアドバイスも。キーワードは「公開講座」。
「オープンキャンパスの模擬講義の多くが“公開講座”のタイトルで配信されています。“経済学”もそうで、内容は本格的だけどクイズ形式のポップな構成で易しいんです」
システム生命論(慶應義塾大学)
心=ロボット?
800万再生のバズり講義
あらゆる生命を“システム”として捉える、システム生命論の講義。生き生きと人間らしく思える感情も、湧き上がるメカニズムはロボットと同じなのだ、と前野隆司教授。2010年に公開され、約800万回(!)再生。「講義動画の中でもバズっているものの一つ。賛否両論飛び交うコメント欄も勉強になる」(大島育宙)
社会構造論(東京大学)
無視できない
日本にはびこる「悪」の裏側
「悪」=「人々の存在と生存を脅かすもの」をテーマにした公開講座。背景には、戦後日本が経験してきた社会構造の変化がある。オイルショックとバブル崩壊の2つを軸に、変容する社会と、深刻さを増す貧困、自殺、教育格差などの社会問題を指摘。まずは冒頭の明快な図で社会変容を押さえる。
ドローイング(京都芸術大学)
描きまくって
モノを見る目を養う
放課後は手を動かして創作だ。対象を見て感じたままに描くジェスチャードローイングは質より量を重視。短いと15秒で仕上げることも。描くほど対象の捉え方も、線の引き方も変わる。砂糖ふくろう先生の実演に沿ってトライ!芸術大学って縁遠い存在だったけれど、ビギナーでも楽しめました」(大島育宙)
経済学(早稲田大学)
数字の“外”を考える
文系のデータ分析
オープンキャンパスの模擬講義。経済学のデータ分析のポイントを実例を挙げて易しく解説。勤務年数が長いほど仕事の満足度が上がる?身長と成績が正比例する?そのデータ、正しく読めていないだけ。「話が面白いしクイズ形式だからつい考えちゃう。気がつけば学んでいる、楽しい授業です」(大島育宙)
アメリカ史(東京外国語大学)
頭を柔らか〜くして
世界を眺める
文化人類学者で批評家の今福龍太教授による、一風変わったアメリカ史講義。バックミンスター・フラーのダイマクション・マップで頭を柔らかくし、アメリカの対外戦争にインディアン戦争の陰を見る。「アメリカ史を追うと同時に、従来の見方から逸脱することも。これぞ大学らしい学び」(大島育宙)
エンタテイメントビジネスマネジメント論(京都大学)
渡辺謙が教える
映画の届け方
俳優の渡辺謙による映画のマーケティング講義。国ごとにパブリシストがいる映画『インセプション』、宣伝に無関心のクリント・イーストウッド監督など自身の経験に基づく語りはリアリティ十分。「映画『明日の記憶』ではテーマの“認知症”という言葉が1日1度は記事になるように努めた話が印象的」(大島育宙)
物理学(東京大学)
E=hf
エネルギーと周波数は比例する??
タイムマシンは実現できるか?そのヒントはアインシュタインの相対性理論にある。難解だけど、光子のエネルギーや電磁誘導など、目に見えないモノも鳥井寿夫教授が実験で示してくれる。「映画『インターステラー』に浦島太郎と、身近な話題から始まるから、講義にもグッと入り込める」(大島育宙)
ゲーム理論(東京理科大学)
楽しげなネーミングの理論で
社会を分析
買い占め行動も銀行の取り付け騒ぎも、ゲーム理論に言わせれば同じこと。どちらも利得が“均衡”する状態なのだ。この均衡に注目して社会現象を分析するのがゲーム理論。「よく知らないけどなんだかわくわく響く、ゲーム理論はYouTube上のパワーワード。この動画なら基礎からさくっとわかる」(大島育宙)
認知行動学(広島大学)
『ケーキの切れない非行少年たち』の研究
非行少年たちの認知機能に迫った新書『ケーキの切れない非行少年たち』を映像で。著者の兄で、共同研究者でもある広島大学医学部在籍の宮口英樹教授が、ケーキの切り方や日本地図の作画などの実例から、理論化と具体的なトレーニングを紹介。センセーショナルではない、臨床の現場を垣間見る。
震災復興と哲学(東北大学)
哲学は社会の役に立つか?
実験の記録
東日本大震災の約2年後に開催された特別講義『マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学』。汚染土壌の仮置き場についてネガティブな意見が交わされる中、当時対応した地方公務員が登場。「今まさに起きている問題に哲学は役立つのか?緊張感のあまりつい見入ってしまいます」(大島育宙)
生理学(京都大学)
ノーベル賞ものの
知の最前線をフランクに
オートファジーとは、細胞の中の不用品を回収・分解・リサイクルする働きのこと。この10年ほどで爆発的に研究が進み、2016年にはノーベル賞受賞対象になった。約20年研究する吉森保教授が雑談多めに解説。「軽妙な語り口で、学生とのやりとりも面白く、教養番組のような手軽さで学べる」(大島育宙)
外国語(東京外国語大学)
書いて書いて書いて
キーン先生の勉強法
日本文学者のドナルド・キーンが「私と外国語」をテーマに行った講演会。幼少期から憧れていたフランス語のほか、スペイン語や中国語、そして日本語を学んできた経験を茶目っ気たっぷりに語る。「歴史的な資料としても重要な個人史。“先生は悪魔のようだった”とくだけたトークが聴きどころ」(大島育宙)
植物史(中央大学)
植物の長い歴史を
30分でざっと知る
中央大学が制作し、教授が監修を務める教養番組『知の回廊』。30分ほどの手軽さだが、内容は本格派。こちらは生物の多様性をテーマに、植物の歴史を振り返る。「大昔の生物も豊富なビジュアル資料でわかりやすい。人類の活動によって種の絶滅速度が1,000倍になっているなど衝撃的な話も」(大島育宙)
イスラム史(東京大学)
歴史は暗記ではない
新文脈で読み直し
アラブの春以降、ISの台頭で混迷する中東。問題の根源は100年前にあった。「英仏が恣意的に中東の国境線を引いたサイクス=ピコ協定が諸悪の根源だという通説を紹介。だけど、“オスマン帝国崩壊の文脈”で考えると事情が変わる。新たな視点を導入し検討する大学ならではの講義」(大島育宙)
地学(京都大学)
地震、待ったなし……!
アツい最終講義
最終講義は自身の学者人生を語るものだが、鎌田浩毅名誉教授は「振り返っている場合じゃない!」と熱のある授業に。テーマは、迫る首都直下型地震と火山噴火への備え。データを明示しメカニズムや予測し得る被害を解説。概要欄から資料をダウンロード可能。「京大でのエピソードも聴きどころ」(大島育宙)